ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-124
*池田あんず(京大・生態研セ), 広瀬大(日大・薬), 松岡俊将(京大・生態研セ), 大園享司(京大・生態研セ)
見かけ上健全な植物組織内に生息している菌類は内生菌と呼ばれ、一部の内生菌については宿主植物との相利共生的側面が知られている。本研究では、特に熱帯・亜熱帯で優占的な内生菌として検出されている子嚢菌クロサイワイタケ科をとりあげる。同科は内生菌として殺虫・殺菌成分を含む二次代謝物を合成するものが報告されている他、腐生菌や病原菌としても検出されており、生態系の生物間相互作用や物質循環に深く関与している可能性がある。しかし同科内生菌は形態からの種同定が困難なため、その分布や多様性、宿主植物に関する情報が不足しており、実際の生態系における機能について未解明の部分が多い。そこで本研究では分子系統学的手法により、国内亜熱帯林のクロサイワイタケ科内生菌の多様性と基質となる植物種を明らかにする。
沖縄県本島北部亜熱帯林の常緑・落葉広葉樹、常緑針葉樹、草本、木生シダを含む64植物種生葉から表面殺菌法と分離培養法により内生菌を単離した。光学顕微鏡及び肉眼による形態観察によりクロサイワイタケ科と推定された合計453菌株の中から、今回は一部菌株の結果について報告する。
分析を行った54菌株のうち46菌株がクロサイワイタケ科に属した。多様な植物種から分離された菌株から成るOTU(操作的分類群)がいくつか確認され、それらについては宿主特異性の低さが示された。また供試菌株の中には同調査地点の落葉から検出された高い分解力をもつ菌株と塩基配列が近似するものがあり、内生菌が落葉後も定着し続け落葉分解に関与している可能性が示唆された。更に発表では現在分析を進めている植物種ごとの結果についても議論する。今後は同科内生菌が定着する植物種の特徴や、生葉以外の基質から腐生菌などとして検出されている同科菌類との照合により、同科内生菌の生態系における機能や生活環を明らかにしたい。