ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-134
*植村 滋(北大・フィ-ルド科学),矢部和夫(札幌市大・デザイン),中村隆俊(東京農大・生物産業),山田浩之(北大・農)
北海道東部の釧路湿原では大規模なハンノキの侵入定着により、ヨシやスゲなどで構成される湿生草本群落を主体としたこれまでの自然景観が急激に変化している。窒素固定機能をもつハンノキによる樹林化は、湿原生態系の機能や養分動態に重大な影響を及ぼすと考えられるが、樹林化が進行している立地の環境や個体群の動態は場所により一様ではない。演者らは釧路湿原のハンノキ群落の動態と推移を予測するために、環境省による自然再生事業が実施されている湿原南東部の広里地区で、樹高の異なるハンノキ個体群のシュ-トの動態を2004年から定点観測しており、これまでに得られた6年間の観測結果を解析した。
広里地区のハンノキ群落は、約40年前から侵入定着したと推定される半径約2キロの円形の群落で、中央部で樹高が低く、周辺に向かって樹高が増す傾向が見られる。演者らは群落の中央部から周辺に向かって樹高が異なるLサイト(平均樹高=1.5m)、Mサイト(2.7m)、Hサイト(4.0m)を設け、各サイトにランダムに設置した5箇所の固定方形区内に生育するハンノキの株ごとに、長さ30cm以上の全シュ-トに標識を付け、シュ-ト長と地際から30cm位置での直径を毎年1回計測した。
デ-タを解析した結果、新規加入率と死亡率はいずれもLサイトで高く、シュ-トの入れ替わりが最も激しいことが明らかになった。シュ-トの入れ替わりは樹高の高い群落周辺部へ行くほど低下した。直径と樹高の成長率はLサイトで最も低かった。推移行列モデルによって得られたパラメ-タを用いて将来の個体群構造を予測した結果、群落中央部のLサイトでは約20年後には個体群が消滅する可能性があることが示唆され、群落の周辺部でも個体群の衰退が予想された。