ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-136
*小林卓也,梨本真,竹内亨(電中研),中野隆志(山梨環境科学研)
富士山は、最終氷期以降に盛んな噴火活動を示したことから、植生の侵入の歴史が浅い。そのため、森林限界の山頂方向への拡大が現在も継続するとともに、侵入初期の樹木個体が残存する地域が存在する。これらの個体の樹齢を把握することで、森林の拡大状況を知ることが可能となる。さらに、樹木の年輪幅やセルロ-ス中の元素の安定同位体比を総合的に解析することにより、森林の拡大と環境との関係や環境変動による影響に関する知見を得ることができる。今回、これらの解析の基礎情報として、富士山西斜面において、富士山の代表的な遷移初期種であるカラマツ(Larix kaempferi)を対象に、標高による樹齢の違いについて調査した。
大沢崩れ右岸に沿った尾根上の標高1,900m(1,850m-2,050m)、2,300m(2,200m-2,350m)、2,900m(2,850-2,900m)、3,000m(3,000-3,100m)の地点を調査対象とした(2,900mは2010年、それ以外は2009年)。1,900m-2,900mの各地点では、樹高、直径、樹体の形状等を参考に、樹齢の高いと考えられる10個体を対象に、3,000m地点では個体数が少なかったことから調査範囲の最高標高に存在した1個体の年輪を調査した。
1,900m地点では、調査対照とした全ての個体が芯腐れ状態であり、今回の調査では樹齢は評価できなかった。各標高において中心部まで年輪の読み取りが可能であった個体の最高樹齢(2009年現在)は、標高2,300m、2,900m、3,000mの各地点において437年(一部不明瞭箇所あり)、157年、64年であった。標高差と樹齢の関係を基に移動状況を推定した結果、2,300m-2,900m間は2.1m/年、2,900m-3,000m間は1.1m/年の移動速度と見積もられた。