ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-137
*鈴木牧, 尾張敏章, 梶幹男(東大演習林)
東京大学北海道演習林では,40年以上に及ぶ天然林択伐施業実験のデ-タが蓄積されている.この実験では,材積成長率に基づく適正な伐採強度の設定,腐朽度合いや相対優占度に沿った選木基準,林冠ギャップを最小化する伐採木の配置等,天然林資源の維持に最大限配慮した施業ル-ルがとられてきた.このような施業方法が樹木種の多様性や各樹種の個体群構造に与えた影響を分析した.
分析では,施業実験林中に設定された毎木調査区のうち,1968-1973 年から 2005 年以降の観測デ-タが存在する 33 区のデ-タを使用した.まず,全調査区の種数,多様度指数,種数-優占度曲線を,期首('68-'73年)と期末('05-'09年)で比較した.次に,各樹種の死亡率・直径成長速度および区画あたり新規加入速度を被説明変数,各区画の伐採強度(収穫実施回数,区画あたり総伐採量)と地形的環境条件を説明変数とし,各回帰係数に対する樹種のランダム効果を考慮した GLMM 回帰分析により,各樹種の個体群動態に対する伐採強度の影響を検討した.
調査区全体の種数は期首と期末で差がなく,Simpson の多様度指数は期首から期末にかけ僅かに増大した.種数-優占度曲線の勾配は期首より期末の方がやや緩く,優占度分布が僅かに均等化した.一方,GLMM 分析の結果から,伐採強度に対する個体死亡率,直径成長速度および新規加入速度の反応は,樹種により異なることが示された.また,一部の樹種では期首から期末にかけ個体群構造が大きく変化した.
以上のように,本実験の施業方法は樹種多様性の維持に一定の効果をもつことが示された.ただし,施業に対する反応の樹種間差などのため,将来的に樹種構成の変化を招く可能性も示唆された.