ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-147
*松井淳,山本浩大(奈教大・生物),辻野亮(地球研),高田研一(森林再生支援センタ-)
大峯山系の弥山や八経ヶ岳周辺には、本州南限のシラビソ林が分布し国の天然記念物に指定されている。このあたりでは1990年代に、ニホンジカの食害でオオヤマレンゲ個体群が著しく衰退し植生保護柵による対策がとられたが、シラビソ林でも枯死木が増加し、かつて見られた縞枯れ(矢頭 1962)が不明瞭となってきた。
シラビソ林の現状を分析し更新の阻害要因を明らかにするため、2008年10月に弥山西尾根の南斜面に1haのプロットを設定した。これまでに成木(DBH≧5cm)および稚樹(H≧50cm)の種名、サイズ、位置、被食の有無を記録し、被度の高い優占種に基づき5mメッシュで林床タイプを分類した。また実生調査(H<50cm)とシカの糞塊調査を行った。
成木は、1haプロット内に生木が9種886本、枯死木が1624本出現した。シラビソが優占し生木の75%を占めた。枯死木が2倍多くそのほとんどは針葉樹であった。剥皮率は全体で35%でありシラビソが43%と最も高かった。小径木ほど高率で剥皮される傾向が見られた。
針葉樹生木はコケ林床に多く、イトスゲ、コバノイシカグマ林床には少なかった。一方枯死木はイトスゲ林床に多く、コケ、コバノイシカグマ林床には少なかった。これらからイトスゲ林床がシラビソ林崩壊の前駆段階ではないかと考えられた。
稚樹は1028本あり、うちシラビソが473本(46%)あった。しかし本来は更新適地であるべき枯死木帯にシラビソ稚樹はほとんど無かった。シラビソ実生は成木の近傍に発生はするが4年生以下、高さ10cm程度までの個体が大半であり稚樹段階に到るまでに定着が阻害されると考えられた。2009年のシカの推定密度は60頭/km2であった。
以上の結果を総合して縞枯れ更新の断絶に至る過程のシナリオを考察する。