ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-151
*菅澤承子(東大・農),山口典之(長崎大・環境科学),樋口広芳(東大・農)
高い移動能力をもつ鳥類が「どこを渡るのか」という情報はこれまで入手困難であった。しかし近年の飛躍的な追跡技術の発達により、大型から中型の鳥類を中心に渡り経路の全容が明らかになってきており、渡り経路や渡り行動の適応性に迫ることが可能となりつつある。
鳥が「なぜその経路を渡るのか」は、所要時間やエネルギ-、そこを通過する際のリスク等により決まっている。一般に、鳥類は飛翔して大気中を移動するため、渡りのコストに気象条件が大きく関わる。気象条件が渡りに与える影響を調べるには、個体が渡り途上で経験した気象条件を詳しく把握する必要があるが、日本周辺は世界の中で最も詳細な気象情報が入手可能な地域のひとつであり、この関連の研究を実施するのに適している。
本研究の対象種サシバは、中国北部、朝鮮半島、日本を繁殖地とし、琉球列島、台湾、フィリピンを越冬地とする。また、本種は近年、個体数の減少が指摘されているが、現状では主要な渡り経路や越冬地の詳細な分布など、保全に役立つ生態・生物地理的情報が不足している。
以上の背景を踏まえ、本研究では、日本で繁殖するサシバの渡り経路を記載し、経路選択に気象条件が与える影響を検討した。渡り経路の解明には衛星追跡結果や観察情報を利用し、経路選択の解析には、気象情報デ-タベ-ス・プログラムによる経路周辺の風向頻度や平均降雨域割合を利用した。
衛星追跡と観察情報の結果、2つの渡り経路の存在が示唆された。1つは琉球列島以北で越冬する個体の渡り経路で、繁殖地・越冬地間を、春・秋にほぼ同じ経路で往復するものである。2つめは琉球列島より南で越冬する個体の渡り経路で、秋に繁殖地から琉球列島を経由してフィリピンへ渡り、春に大陸方面へ向かうものである。これらの結果から気象情報の調査区域を設定し、気象条件の飛翔や経路選択への影響を考察する予定である。