ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-152
*古市生, 粕谷英一(九大・理・生態)
巣を作り子を養育する動物にとって、巣を攻撃して子を捕食する捕食者の行動は重要である。捕食者は一度の攻撃で巣にいる一部の子だけを捕食することも多い。そのような捕食の場合、捕食をうけた巣にはまだ子が残っていて、連続して同じ巣で捕食に成功する可能性がある。しかし捕食後、巣にいる子の親は捕食者の存在を察知し、さらなる捕食を防ぐために、巣の防衛に多くの時間を費やすようになる。それに対し、捕食者は何も変化しないのではなく、適応的な反応をしている可能性がある。本研究では、フタモンアシナガバチを用いて、巣への捕食後、同じ巣への攻撃はどのように行われているかを明らかにする。
フタモンアシナガバチのメスは、春から初夏にかけて1頭で巣を作り子を養育する。メスたちの間では、近くの巣への攻撃が起こる。近くで巣を作る同種のメスが、他の巣に飛来して、幼虫を巣から引き抜いて、自分の巣に持ち帰り自分の幼虫の餌とする、”巣間共食い”が見られる。他の巣へ攻撃したときに、巣の持ち主であるメスがそのとき巣にいると必ず撃退されてしまう。巣の防衛はメスが巣にいることで十分であるが、メスは採餌など行う必要があり、ずっと巣にいるわけにはいかない。メスは、直接他巣のメスによる攻撃を経験しなくても、外出から戻ってきて、巣内の幼虫が減っていると、その後の外出時間を減らし、巣にとどまる時間を増加させる。
観察の結果、捕食に成功したメスは30分以内に再び同じ巣を攻撃した。捕食直後の再攻撃では、捕食に成功することはなかった。1-2回撃退されると、再攻撃までの時間は、捕食直後に比べ長くなり間隔があいた。今回の結果は、捕食者は巣に親が存在することを確認すると、再攻撃までの時間を延長し、しばらく攻撃をやめることを示している。捕食者は、巣の防衛強化に対して無駄な攻撃を避け時間の浪費を防ぐように反応している。