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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-153

マダガスカル熱帯乾燥林におけるチャイロキツネザルの周日行性:なぜ昼も夜も活動するのか?

佐藤宏樹(京都大・アフリカ研)


哺乳類では昼も夜も活動する周日行性が普遍的にみられるが、霊長類ではほとんどの種が明瞭な昼行性か夜行性のいずれかを示す。その中で、マダガスカル産霊長類(キツネザル類)のうち、Eulemur属は周日行性を示す。先行研究によると、多くの地域個体群で雨季は昼行性を示す一方、乾季になると日中活動量が減り、夜間活動が増える傾向が確認されている。しかし、夜間活動の要因が主に議論され、日中活動を制限する要因の解明はほとんどされていない。そこで本研究は、雨季と乾季が明瞭なマダガスカル北西部の熱帯乾燥林に生息するチャイロキツネザル(Eulemur fulvus)の1つの群れを対象とし、日中活動の減少と夜間活動の増加に関する要因を検証した。

1年間の終日観察で得られた日中の活動量と、環境要因(気温、日射強度、降雨量、林冠葉量)の季節変動を調べたところ、降雨量と葉量の減少、日射強度の増加に伴い活動量が減少した。雨季は終日活発で、採食と移動を繰り返す一方、乾季は朝夕に活動が集中し、日射リズムに伴って昼間に長い休息がみられた。結果から、乾燥条件における日射熱ストレスが日中活動を制限する要因であると考えられる。乾季は終夜観察も行い、食性を調べた。日射強度が強く乾燥の厳しい乾季後半では、日中の果実採食の割合が減り、多肉質の葉の採食が増えた。夜間は、乾季前半より果実採食が長く、多肉質の葉は全く利用されなかった。

乾季の日中休息の利点として、日射熱による体温上昇の回避と気化冷却による水分損失の最小化が挙げられる。更に日中の葉食は、水分摂取のために必要だったと考えられる。行動性体温調節に関わる休息と葉食が日中の大部分を占めるため、エネルギ-摂取不足を補う果実採食が夜間に行われたと考えられる。チャイロキツネザルの周日行性は、乾燥条件での熱ストレスに対する適応戦略である可能性が示唆される。


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