ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-154
*加藤賢太,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)
日本全国の水田で晩夏から初秋にみられるノシメトンボは、里山林に生じているギャップで生活し、水田へは産卵のためにしか訪れない。その飛来頻度は、約1週間に1回で、その時に体内でもっていた成熟卵を全て放出してしまう。本種は、飛翔しながら卵を放出する打空産卵を行なうが、この時期の水田はすでに水落としが完了した乾田である。すなわち、翌年の初夏まで、卵の孵化や幼虫の成長に必要な水が存在しないのである。それにもかかわらず、雌は乾田の上から産卵しており、雌は何らかの方法によって、乾田を産卵場所(あるいは卵や幼虫の生息場所としての水域)と認識していることになる。そこで、水田におけるノシメトンボの産卵飛翔高度を、水田における気温や湿度、照度などの垂直分布と比較した。測定は、8月下旬のノシメトンボの産卵季節前半の、晴天で微風時に、8時から16時まで行なった。垂直分布の測定は、稲の葉先を基準として、25?刻みで稲の上空に2段階、下方に2段階の計5段階の高さにおいて行ない、自動記録計で温度と湿度を計測した。ノシメトンボの連結態は、9時頃から水田に飛来しはじめ、正午ごろに最も多く、14時を過ぎるとほとんどみられなくなった。産卵飛翔高度は、稲の葉先とほぼ同じ高さで、雌は、その高度で尾を振り下ろし、卵を放出していた。この高さは、温度と湿度から算出した水蒸気圧が急激に減少する境界であった。産卵は、水田全体で行なわれており、特定の場所が好まれることはなかった。稲の高さは均一であり、水蒸気圧の急激に減少する境界は水田全体で均一と予測される。これが結果的に擬似水面となって、ノシメトンボの産卵行動を引き起こしていると考えられた。本調査地では、オオアオイトトンボもこの擬似水面を利用した産卵行動を示している。