ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-156
*入戸野太朗(九州大・シス生),粕谷英一(九州大・理)
気温の変化は生物の活動性を変化させ、交尾行動に影響を与える。それだけではなく、交尾シグナルにも影響することが知られており、単位時間当たりのシグナル発生回数などが気温によって変化する例が、様々な分類群・シグナルで発見されている。気温によりシグナルが変化すると、種内での信号としての機能に影響するかもしれない。鳴き声を用いてメスを誘引する昆虫では、鳴き声シグナルの音響的性質も気温の影響を受けて変化する。昆虫の中で体サイズに対してもっとも大きな声で鳴くと言われるセミでは、鳴き声の音響的性質として音圧・周波数パラメ-タ-・時間パラメ-タ-と気温の関係が調べられている。中でも、音圧や時間パラメ-タ-(鳴き声におけるパルスの持続時間や単位時間当たりの発生回数)は気温の影響を受ける。セミの中には、時間パラメ-タ-を用いて種内コミュニケ-ションを行っているものがあり、気温による時間パラメ-タ-の変化は種内コミュニケ-ションに影響を与えることが考えられる。セミの鳴き始めから鳴き終わりまでのひと鳴きの時間も種内での信号としての機能を持つと予想されるが、ひと鳴きの時間の長さと気温との関係はまだ調べられていない。本研究では、従来の鳴き声の音響的性質とあわせて、ひと鳴きの時間と気温の関係に着目した。2010年8月に九州大学構内でクマゼミCryptotympana facialisの鳴き声を録音するとともに、そのときの気温を記録した。また、体サイズ・時刻なども記録し、クマゼミのひと鳴きの時間がどの要因によって変化するのか調査した。その結果、気温が高いほどひと鳴きの時間の長さは短くなる傾向にあった。また、6時から12時の間で時間が経つほどひと鳴きの時間は短くなる傾向があったが、これは6時から12時における気温の変化の影響であった。体サイズとひと鳴きの時間の間には有意な相関はなかった。