ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-170
*鈴木真理子(京大・野生動物), 杉浦秀樹(京大・野生動物)
集団を形成する動物は、仲間とはぐれないために、常に仲間の行動や位置を把握する必要がある。ニホンザルは、数十頭から成る大きな群れを形成し、群れとしてまとまって移動する。著者らは、ニホンザルにおいても周囲に個体が少なくなると音声のやりとりや、周囲を見回す行動「他個体モニタリング行動」が多くなることを明らかにした。一方、仲間の行動や位置の把握しやすさには、視界環境も影響していると考えられる。本研究では、森林の視界環境によってニホンザルの他個体モニタリング行動がどのように変化するのかを調べた。
調査は2007年4月から9月の間、屋久島に生息するニホンザル2群を対象におこなった。個体追跡法を用いて、他個体モニタリング行動、近接個体数、GPSによる位置情報を記録した。また、視界環境は行動域内に50m×50m の格子状に測定場所を設定し、レ-ザ-距離計を用いて可視範囲の半径を推定した。サルがいた場所からもっとも近い測定場所の値を視界環境の指標とし、他個体モニタリング行動との関連を検討した。
ニホンザルは周囲に他個体がいないときに、視界環境の影響を受けることがわかった。視界環境が良いときよりも悪いときに、より高頻度で鳴き、周囲を見回した。一方、周囲に個体がいるときは、どちらの行動もあまり環境の影響を受けなかった。周囲を見回す行動は約15m以内のときによく起こり、発声は視界が約10m以内のときによく起こった。ニホンザルは、視界の悪化に伴いまず周囲を見回すようになり、さらに視界が悪くなると音声を多用することが示唆された。ニホンザルは仲間からはぐれやすい状況を回避するために、生息地の視界環境に応じて他個体モニタリング行動を変化させていることが明らかになった。