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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-173

アカネズミのオニグルミ採食技術における社会的学習

武智玲奈


多様な餌資源を利用する動物にとって、採食行動が遺伝的に固定しているよりも学習による柔軟性を有している方が、新規な餌への対応という点で適応的である。学習には、試行錯誤による自己学習と、他個体から新たな行動様式を獲得する社会的学習がある。社会的学習には、他個体の行動の模倣、他個体の食べ痕に基づく学習、母子間伝達がある。試行錯誤では適切な行動を身につけるまでに時間がかかるため、一般的には社会的学習の方が学習効率は高い。本研究では、アカネズミによるオニグルミ種子の採食行動に関して、自己学習や社会的学習が採食技術の向上にどのような効果を持つのかを明らかにするために行動実験を行った。

独立生活する個体における自己学習と社会的学習の効果を調べるために、オニグルミ種子を食べたことがない個体に単独飼育下で種子を与える実験(自己学習のみ)、食痕付きの種子を与える実験(食痕に基づく社会的学習)、上手に食べる個体を隣接させてその行動を見せる実験(模倣による社会的学習)を行った。14日間連続して採食行動を観察した結果、自己学習のみの実験では、採食技術を向上させる個体が見られた。食痕および模倣による社会的学習では、自己学習のみの実験と同程度の行動変化しか認められず、自己学習を上回る学習効果は検出されなかった。さらに、母親と過ごす期間における社会的学習の効果を検証するために、育児中にオニグルミ種子を与え続ける実験(母子間伝達による社会的学習)を行った。子どもの自立後に30日間に渡って種子の採食行動を観察し、育児中に種子を与えられなかった子どもの採食行動と比較した結果、育児中に母親がオニグルミ種子を食べることでそれを上手に食べるようになる子の割合が増加し、採食技術が母から子へ伝達されることが示された。


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