ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-174
椎名佳の美(*), 東正剛, 北大・環境科学
既に他種が獲得した資源を盗み取るような搾取的な関係、盗み寄生(Kleptoparasitism)は、鳥類では餌や巣材の横取りといった行動において知られる。樹洞を繁殖場所やねぐらに利用する樹洞営巣性鳥類においても、盗み寄生と考えられる営巣樹洞の乗っ取り行動が、欧米に生息するヨ-ロッパムクドリで知られる。 森林性鳥類の大半は樹洞営巣性鳥類であるが、自ら樹洞を掘り利用出来る種は、キツツキに代表する極一部の種に限られている。そのため、自ら樹洞を掘り利用出来ない多くの種は、森林内に分布する自然樹洞やキツツキ類の古巣等の限られた樹洞資源に依存しなければならず、同類の樹洞を要する他種との間で常に競争を強いられている。このことから、競争を回避しより適した営巣樹洞を獲得するために、盗み寄生のような行動が生じる可能性がある。
ニュウナイスズメPasser rutilansは、キツツキの営巣樹洞を乗っ取り繁殖に利用することが観察されている樹洞営巣性鳥類である。 東アジア地域に分布し、北海道では4月下旬から8月頃にかけて森林や農村部に飛来し繁殖する。森林には、体サイズが似る小型鳥類が留鳥として生息することから、夏鳥である本種は最適な樹洞の獲得において厳しい競争下にあることが考えられる。 そこで本発表では、ニュウナイスズメの樹洞獲得における乗っ取り行動は盗み寄生であると考え、乗っ取りが繁殖にどのような効果を持つのか推察することとした。 調査は、2006年から2010年の繁殖期(4月―7月)にかけて、北海道札幌市羊が丘にある針広混交林において実施した。ラインセンサス及び個体追跡から、生息数と森林に分布する営巣樹洞を把握した。各営巣樹洞について雛の巣立ち迄の親鳥の繁殖行動を記録した。これらから、好まれた樹洞の種類や乗っ取りによる獲得の有無、他種との競争の有無、繁殖成否を明らかにする予定である。