ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-175
*野林真麻(九大・システム生命),平山寛之(九大・理),粕谷英一(九大・理)
動物は捕食リスクに対して対捕食者行動をとるが、対捕食者行動にはコストが伴う。動物が経験する捕食リスクの強さは様々であり、状況に応じて行動を調節する。行動を量的に調節できる場合、自分への捕食リスクの変化に対して、一般的にリスクが上昇すると反応は徐々に強くなるが頭打ちになる。
一方、子への捕食も適応度を下げる要因となる。よって、親は子の捕食を防ぐための対捕食者行動をとる。自分が捕食される場合、捕食により適応度は大きく減少するが、子への捕食の場合には親の適応度の減少は部分的でしかない。そのため、子の捕食リスクの上昇に対し、必ずしも親の反応が強くなるとは限らない。しかし、子の捕食を回避するための親の行動が捕食リスクの違いに対してどのように変化するかを調べた研究はほとんどない。
今回、ナミアメンボと卵の捕食寄生者である寄生蜂を用いて、子の捕食リスクの上昇に対する親の対捕食者行動の変化を調べた。アメンボは水草などにつかまって潜水し、卵を産みつける。潜水せずに水面付近に産卵することも可能である。深い位置に産まれた卵ほど寄生率は低くなるが、潜水は親にとって溺死などのコストを伴うと考えられる。
本研究では、産卵前に異なる密度の寄生蜂(0,6,12頭)を経験したアメンボの産卵深度を比較した。その結果、寄生蜂を経験した場合(6,12頭)に産卵位置が深くなったが、寄生蜂密度が6頭と12頭の場合の産卵深度に差はなく、深度の変化は頭打ちとなった。子の捕食リスクの上昇に対して親がとる対捕食者行動は頭打ちになるか、もしくは段階的にしか変化しないのかもしれない。また、羽化後の日数が経過したメスほど深い位置に産卵した。この結果は、子の捕食回避のために親がとる対捕食者行動の決定に親自身のコストや将来の繁殖可能性が影響する可能性を示している。