ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-182
*中下留美子(森林総研), 鈴木彌生子(食総研), 楊宗興(農工大・農), 高畠千尋, 泉山茂之(信大・農)
北アルプスは山麓から高山域まで標高1000?3100mもの高度差をもち、植物の垂直分布帯がはっきりしている。ニホンザルはこの環境をうまく利用して、非積雪期に亜高山帯・高山帯の高山域を広く利用する群れ(alpine群)、山地帯の落葉広葉樹林に生息する群れ(mountain群)、山麓部で猿害を引き起こしている群れ(rural群)が多数隣接して生息している。本研究ではこれら多数の群れのニホンザルから採取した体毛の炭素・窒素安定同位体比を測定し、群れの生息地利用と同位体比の違いについて検討した。
炭素同位体比はrural群で最も高く、alpine群とmountain群では変わらなかった。rural群の高い値は里のトウモロコシの猿害と一致する。一方、窒素同位体比はrural、mountain、alpine群の順に低くなり、試料採取地点の標高と負の相関を示した。つまり、標高の低い地域に分布している群れの個体ほど高い窒素同位体比を示した。生息場所の標高の違いにより動物タンパク質を得る機会が異なるという証拠はなく、標高が低いほど植物(農作物は除く)の窒素同位体比が高いという結果も得られていない。そこで、北アルプスにおいて他の植物よりやや高い窒素同位体比をもつマメ科植物に着目した。mountain群の生息域は人家や畑はなくとも林道が多数存在し、林道沿いの法面にはマメ科植物が多く生育しており、サルもよく利用しているところが観察される。一方、alpine群の生息域は、ほとんど林道がなく、マメ科植物を利用する機会が少ない。群れの行動圏内の道路総延長と窒素同位体比を比較したところ正の相関を示したことからも、林縁部におけるマメ科植物の利用が窒素同位体比に反映されていると考えられた。