ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-183
*山崎裕治,安達文成,萩原麻美(富山大・院理工)
昨今,日本各地でニホンイノシシSus scrofa leucomystaxの生息範囲の拡大および人里への出現頻度の増加が報告されている.これに伴って農作物への被害が拡大しており,加えて生態系への影響も懸念されている.日本列島ほぼ中央部の日本海側に面する北陸地方においても,同様の傾向が認められている。特に,ここ数年間におけるニホンイノシシの出現個体数の増加は著しい.このような個体数増加は,北陸地方における繁殖機会の増加だけではなく,周辺地域からの移入に起因していると考えられる.そこで本研究では,ニホンイノシシの北陸地方,特に富山県への移入ル-トおよび県内における分散パタンを推定するために,富山県および周辺県の個体を対象とした集団遺伝学的解析を行った.ミトコンドリアDNA調節領域の部分塩基配列を決定した結果,対象地域において2007年から2010年にかけて捕獲・提供された個体から既報の4つのハプロタイプ(J01,J03,J08,J09)および新規の3つのハプロタイプ(JX1-3)が検出された.このうち富山県においては,J03 およびJ09を有する個体が高頻度に出現した.これら2つのハプロタイプの富山県内における出現パタンの経年変化,および周辺県における出現パタンを比較した.その結果,J09を有する個体は富山県中央部および西部に進入し,その後は両地域で個体数を増加させると共に,その個体の一部は富山県東部へ分散していることが推察された.一方,J03を有する個体については,富山県東部への移入が生じており,その後に富山県内の中央部へ分散していることが推察された.これらの結果から,今後も富山県内および北陸地方におけるニホンイノシシの個体数増加および生息範囲の拡大が懸念される.