ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-189
*山田晋也(静岡県・森林研セ), 湯浅卓(?野生動物保護管理事務所),大場孝裕,大竹正剛,大橋正孝(静岡県・森林研セ)
孤立度の高いニホンジカ地域個体群に見られる遺伝的多様性や遺伝構造から過去の狩猟圧による影響や生息地分断の影響を解析することは、今後の管理がニホンジカ地域個体群の遺伝的多様性や遺伝構造にもたらす影響を予測する上で重要な意味を持つ。静岡県の伊豆地域は、県内他地域に比べ広葉樹林の割合が多く、針葉樹林と入り混じって多様な自然環境を形成していること、また、冬季の積雪もほとんどなく、温暖な気候下にあることから、ニホンジカの生息環境として適しているため、県内の他の地域個体群と比較して個体数の増加が顕著な地域である。
伊豆地域のニホンジカは、ミトコンドリアDNA(以下mtDNA)のD-loop領域の解析によりIとHの2種類のハプロタイプ(以下Ht)を有し、HtIは伊豆地域中心部に、HtHは伊豆地域北西部及び富士山麓東部に分布することが明らかにされている(Yuasa et al. 2007)。Yuasa らのサンプリングより約10年が過ぎたが、特定保護鳥獣管理計画によれば伊豆地域のニホンジカの推定生息頭数は増加傾向にあること、分布も拡大傾向にあることから、現在のHtの地理的分布を言及することは難しい。そこで、伊豆地域におけるニホンジカの分布を網羅するように215頭のHtを分析することとした。供試個体から組織片を採取してDNAを抽出し、mtDNAのD-loop部分配列(463bp)の塩基配列を決定して分析を行ったところ、全215頭から4つのHt(I、N:Iと1塩基異なる、H、O:Hと1塩基異なる)が認められた。I(161頭)は伊豆地域全域、H(48頭)は伊豆地域北西部、N(5頭)は伊豆地域北東部、O(1頭)は伊豆地域北西部に分布していることが分かった。これまでの結果と合わせて伊豆地域個体群の遺伝構造について考察する。