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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-194

ショウジョウバエ翅形態の安定性に対する人為選抜実験

*辻野昌広, 高橋一男(岡山大・RCIS)


生物はその発生過程で受けるさまざまな撹乱に対して、それらを緩衝し形態形質を安定化する機構を持つと考えられる。この機構は遺伝的多様性の維持および物理的な環境変動への適応において重要である。発生過程の安定性を定量化する際には、fluctuating asymmetry(形態の左右差; 以下FA)がしばしば用いられる。これは、生物体の左右の対応する部位は遺伝的、物理的環境を共有しているため、FAが発生過程のランダムな撹乱を反映すると考えられているからである。

ショウジョウバエの翅は、そのFAが飛翔や求愛歌に影響する可能性も示唆されており、FAの適応的意義と研究のしやすさから、多くの研究がなされてきた。しかし、翅形態のFAに影響することが示唆されている遺伝子はごく少数であり、推定されている遺伝率も非常に小さい。一方で、翅の部位により、独立な形態形成機構が働いている事が分かっており、部分形態特異的なFAの制御機構が存在する可能性がある。

本研究では、野生キイロショウジョウバエ系統を材料として、翅の部分形態特異的なFA制御機構の存在を明らかにすることを目的として研究を行った。EHIME-FLYより入手した、日本列島各地で採集された野生キイロショウジョウバエ20 系統を対象に、4つの翅形態形質のFAの系統間分化と遺伝率を評価した。また、FA に対して人為選抜実験を行い、FA制御機構の進化的応答を検証した。

その結果、一部の部分形態のFA において、有意な系統間分化や、有意な遺伝率が検出された。これらの結果は、FAの制御機構は体の部位ごとに異なることを示唆している。実際に、有意な系統間分化の見られなかった部分形態のFAについては、7 世代の人為選抜への、FAの進化的応答は検出されなかった。今後、別の部分形態を対象とした人為選抜を含め、さらなる研究が必要である。


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