ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-201
*長谷和子,嶋田正和(東大院・総合文化)
体外受精のカエル類では、同一母親由来の卵(卵塊)に1個体以上の雄由来の精子による受精(polyandry現象)が起こりやすいと考えられる。このような現象は、実効性比が雄に偏るために起こる強い雄間競争に由来する。また、カエル類の配偶行動では、雄間競争において、新規的な代替戦略(スニ-カ-雄)が観察されることも知られている。これら代替戦略は、polyandry現象と密接に関わっているケ-スも充分に考えられるだろう。
本研究では、東京圏に分布する日本産ヒキガエルBufo japonicus局所個体群内において、雄の代替戦略としてのスニ-カ-行動を、polyandry現象の分子マ-カ-による検知という裏付けから、実証することを試みた。2月下旬から3月上旬の冬眠明け直後、一斉に繁殖池に集まり、数日-1週間程度という短い間に繁殖行動をとる爆発的繁殖行動者であるB. japonicusでは、その実効性比が雄に偏ることが知られている。これまで、ヒキガエルの繁殖行動では、雄による雌への抱接が受精において非常に重要で、雌に抱接できなかった雄が、子孫の残せるかどうかについては、実証的に検証されたことがなかった。今回、東京都調布の繁殖池における2010年2月の繁殖行動において、抱接ペアとその卵塊、その近辺(池の中)にいたが抱接には参加していない雄2匹のDNAサンプルについてマイクロサテライトマ-カ-を用いて調べたところ、受精卵の遺伝子型のなかに、抱接ペア以外のものが多く含まれていることを検知した。
本発表では、B. japonicusにおける初のpolyandry現象の報告と、生息域の分断により孤立化している局所的個体群において、“抱きつけなくてもかまわない”とうい新規的な雄の代替戦略が見られているのかもしれないという仮説について、報告する。