ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-206
*小田崇,山崎理正(京大院・農),伊東康人(兵庫農技総セ)
近年主要な森林害虫となっているカシノナガキクイムシは、寄主木への集中的な穿孔(マスアタック)という繁殖戦略を有している。この戦略はマスアタックによって寄主木を枯死させることに適応的意義があると推測されているが、その結果樹幹表面上に形成される高密度な穿孔が繁殖成功度にどのような影響を与えるのかは明らかでない。そこで本研究は、穿孔部位特性と穿孔密度が繁殖成功度に与える影響を調査し、カシノナガキクイムシの生息地選択の意義を明らかにすることを目的とした。
調査はミズナラとクリが優占する京都府東部の二次林内でおこなった。カシノナガキクイムシのマスアタックをうけ2009年に枯死したミズナラ3本を調査木とし、地際から1.5m以内にある穿孔すべてに羽化トラップを仕掛け、2010年に羽化脱出してきた成虫数をカウントした。羽化脱出成虫の総数を穿孔ごとの繁殖成功度とし、それを穿孔部位特性(地上高、樹幹表面の凹凸指数、樹幹表面の傾斜角)と穿孔密度で説明するhurdleモデルにより、穿孔部位特性と穿孔密度が繁殖成功度に与える影響を評価した。
その結果、1208個の穿孔から15540匹の羽化脱出が確認されたが、樹幹上で地上高が低く凹んだ部位ほど一匹以上の成虫が脱出する確率は高かった。また繁殖成功度には密度依存的なばらつきがあり、穿孔密度が低い段階では密度の増加とともに繁殖成功度は増加したが、穿孔密度が高くなると密度の増加とともに繁殖成功度は減少した。
これらの結果はアリ-効果を含んだ理想自由分布の一例だといえるが、これは穿孔の周辺10cmという密度スケ-ルで観察された。このことから、カシノナガキクイムシは寄主木選択だけでなく、穿孔部位選択においても、生息地を密集させることによる正の効果(生息環境の最適化)と負の効果(生息地間競争)をかんがみながら生息地決定をしていることが示唆された。