ESJ58 一般講演（ポスタ-発表） P3-212
下地 博之（1鹿児島大・連合農学, 2琉球大・農）*, 菊地 友則, 大西 一志, 辻 和希（琉球大・農）
ミツバチやアリ等の真社会性ハチ目昆虫では、女王は産卵を行いワ-カ-は子供の世話や採餌などを行う繁殖分業によって、調和の取れた社会を形成している。繁殖分業はワ-カ-の利他行動によって成立しているが、多くの種でワ-カ-も卵巣を保持しており、交尾は出来ないが将来オスになる未受精卵を産卵できる。このためワ-カ-の利他行動は、ある種の社会的強制力（ワ-カ-ポリシング）によって維持されていると考えられている。これまでワ-カ-ポリシング研究は、主にコロニ-内のワ-カ-間の血縁度に着目して行われてきた。初期のポリシング理論では、単女王性・女王一回交尾種においてワ-カ-ポリシングは進化しにくいとされているが、実際にはこのような種でもワ-カ-ポリシングが起こるため、近年では血縁度以外の要因がワ-カ-ポリシングの進化に関係している可能性が示唆されている。繁殖スケジュ-ル仮説（Ohtsuki & Tsuji 2009）はワ-カ-ポリシングの進化を説明する新規の数理モデルであり、ワ-カ-ポリシングの進化的要因はワ-カ-繁殖に伴うコロニ-レベルのコストであると主張している。具体的には、ワ-カ-ポリシングの強度はコロニ-のサイズ（ワ-カ-の数）によって変化し、コロニ-サイズが小さい時は強力なポリシングが起こり、コロニ-サイズが大きくなるとポリシングが緩和され、ワ-カ-繁殖が起こると予測している。本研究では、単女王性・女王一回交尾の日本産トゲオオハリアリ（Diacamma sp. from Japan）を用いて繁殖スケジュ-ル仮説の経験的テストを行い、予測を強く支持する結果を得た。これによって、ワ-カ-ポリシングの進化的要因は血縁度よりもむしろワ-カ-繁殖に伴うコロニ-全体のコストである事が示唆された。