ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-213
*大谷洋介,澤田晶子,半谷吾郎
複雄複雌群を形成する霊長類種では、集団に属する個体の採食、繁殖戦略は集団内での観察からのみ議論されてきた。一方で母系の複雄複雌群を形成するニホンザルでは、雄個体が一時的に集団から離脱する可能性が示唆されている。集団から離れることによって採食競合の回避や他集団の個体との交尾といったメリットが生じることが予想されるため、一時離脱行動が雄個体にとって重要な意味を持つ可能性がある。
本研究ではGPSを携帯した2人の調査者が雌雄を同時に追跡し、個体の位置と行動を記録した。その結果、雄個体の集団からの一時離脱が確認された。非交尾期において、被攻撃頻度が高く採食競合上不利な低順位個体がより高い頻度で離脱していた。加えて集団外では採食頻度が高いことから、一時離脱によって採食競合が回避されている可能性が示唆された。また交尾期において、集団内の発情雌の頭数と雄の離脱頻度に負の相関が見られ、離脱時に他集団の雌との交尾が確認された。このことから一時離脱によって繁殖成功度が上昇している可能性が示唆された。