ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-215
*中村早寿, 前川清人(富山大院・理工)
カ-スト分化と分業は社会性昆虫の特徴であり、タスクに特化した各カ-ストが協働することで巣全体の生産性を高めている。高度な社会性を維持する上では、巣内のカ-スト比を一定に調節することが重要である。シロアリのほぼ全種で、防衛を担うソルジャ-が存在するが、分化の調節機構は未だ不明である。雌雄の生殖虫による創設直後の初期巣は、各巣でほぼ同時期にソルジャ-が1-数匹分化するため、ソルジャ-分化への生殖虫の影響の観察に適している。そこで本研究は,実験室内でネバダオオシロアリの初期巣を作製し、以下の実験を行った。
まず,マ-キングによる個体識別で、どの幼虫がソルジャ-に分化するのかを調べた(n=22)。その結果、全巣で最初に3齢に脱皮した幼虫だけが、7.3±0.8日(平均±SD)でプレソルジャ-(ソルジャ-の前段階)へ分化した。また、最初の3齢幼虫を脱皮直後に除去すると、多くの巣において、後に3齢に脱皮した幼虫が、9.3±1.3日でプレソルジャ-に分化した(n=9/11)。次に、生殖虫の影響を調べるため,最初の3齢幼虫の出現後に生殖虫を除去した(n≧7)。その結果、3齢幼虫がプレソルジャ-になるまでの期間が約1日延びた。最後に、ソルジャ-分化に影響する生殖虫の行動を明らかにするため、3齢幼虫の出現からプレソルジャ-分化まで、生殖虫と幼虫間の行動を観察した(n=8, 120分/日)。その結果、最初の3齢幼虫は、後に出現した3齢幼虫(プレソルジャ-には分化しない)より生殖虫の肛門からの栄養交換を顕著に多く受けていた。以上より、初期巣の生殖虫は、栄養交換行動を介し、3齢幼虫からのソルジャ-分化を調節することが強く示唆される。 生殖虫の腸内容物をより詳細に分析した結果も報告する予定である。