ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-220
*滋田友恒, 北出理(茨城大・理)
ヤマトシロアリReticulitermes speratusは、1?2齢の幼虫期間を経た後、3齢でニンフかワ-カ-のいずれかのカストに分化する。ニンフは有翅虫への分化能を持つ。Hayashi et al. (2007)は、本種のニンフ・ワ-カ-の決定に、X染色体上の1遺伝子座が強い効果を及ぼすことを明らかにした。本種は、単為生殖能を持つが、単為生殖で生まれた子は、この遺伝子座が、「ニンフ遺伝子型」であり、生殖虫から隔離して飼育すると、全個体が雌ニンフに分化する。
「ニンフ遺伝子型」の子を生殖虫と共に飼育した場合、一部の子はワ-カ-に分化するが、ワ-カ-に分化する子の割合は、母巣(親を得た野外コロニ-)によって異なる。これは、生殖虫由来の外的要因(おそらくフェロモン)がワ-カ-分化を誘導し、このワ-カ-分化誘導に対する子の感受性が、副次的な遺伝子の影響を受けるためと考えられる。
本研究は、ワ-カ-分化誘導に対する遺伝的影響を調べるために、多数の野外コロニ-から雌有翅虫を取り出し、同じコロニ-由来の雌有翅虫2個体に、初期コロニ-を創設させ、単為生殖で子を生産させた。創設から120日後、各カストの個体数をコロニ-ごとに調べた。各初期コロニ-を、分化したニンフの有無で区分したところ、ニンフが分化したコロニ-の割合(ニンフが分化したコロニ-数/総コロニ-数)は、生殖虫の母巣により有意に異なった。一方、子の個体数は、分化したニンフの有無に、有意な影響を与えなかった。これは、遺伝的要因が各コロニ-のニンフの有無に影響したことを示唆する。また、ニンフが分化したコロニ-の頻度と母巣の有翅生殖虫の性比(メス率)には、正の相関が見られた。