ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-231
*辻本惠(総研大・極域),伊村智(極地研)
外来生物がある地域の生態系にもたらす影響は、今世紀の生態学者が直面している最も重要な課題のひとつである。南極半島や亜南極の島々においては、近年の年間訪問者数の急激な増加に伴う数々の外来生物が報告されており、今後、昭和基地を含む高緯度地域においても拡大すると予想される外来生物の移入に関して、早急な対策が必要であると考えられている。そんななか、日本の南極観測事業においては2009年の国立極地研究所の移転と新「しらせ」の就航に伴い、日本から南極・昭和基地へ運ぶ物資の輸送システムが大幅に変更された。そこで本研究では、南極観測事業における外来生物の「移入プロセス」に着目し、新・旧システムにおける輸送物資の付着物調査を行い、輸送システムの相違による外来種持ち込みの危険性の違いを明らかにした。
調査では、輸送物資からブラシで付着物を採取し、含まれる繁殖体(種子、昆虫、ダニ、コケなど)の種類・総数を調べた。旧システムについては2007年10月に、移転前の東京都板橋区施設内で第49次日本南極地域観測隊の輸送物資のうち25梱を対象に行った。新システムについては2009年10月に、移転後の東京都立川市施設内で第51次観測隊の輸送物資のうち28梱を対象に行った。計53梱から検出された繁殖体について、梱包形態や保管場所等の観点から議論を行った。野外に保管されている12ftの大型コンテナからは最も多く、次にスチ-ルコンテナ(野外・屋外共に)から多くの繁殖体が検出された。屋内に保管されている段ボ-ルからはほとんど繁殖体が検出されなかった。旧システムでは、小型輸送物資の7割以上を段ボ-ルで梱包していたが、新システムでは、小型物資の多くは主に12ft大型コンテナやスチ-ルコンテナで輸送されている。本結果から、現在運営している新輸送システムにおいて、南極への外来種持ち込みの危険性が高まっていることが示唆された。