ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-234
*北野聡(長野環保研), 小林収(長野西高), 山本祥一郎(中央水研)
カワシンジュガイは幼生時代にサケ科魚類の鰓に寄生することで知られる淡水産二枚貝であるが,近年の生息環境の悪化により各地で個体数が減少し絶滅が危惧されている.さらに最近では外国産のサケ科魚類が放流され,カワシンジュガイ幼生の本来の宿主であるサケ科魚類が減少するという事態が同時進行している水域も少なくない.そこで我々は2009年度から2シ-ズンにわたって外国産マス類(ニジマス,ブラウントラウト,カワマス)の宿主ポテンシャルを解明するための飼育実験を行ってきた.今回は前回サンプル数が不十分だった実験群のデ-タ補強を主な目的として再実験を行った.
なお,ニジマスについては前回の実験でホスト不適合という明瞭な結果が得られたので,今回はホスト魚種としてブラウントラウト(中禅寺流入河川産:全長10-20cm)およびカワマス(中央水産研究所飼育魚:全長10-20cm)の2魚種,グロキディウム幼生としてカワシンジュガイ(大町市農具川産:ヤマメ類が本来のホスト)とコガタカワシンジュガイ(長野市戸隠逆さ川産:イワナが本来のホスト)の2種を使用した.実験では強制的にグロキディウム幼生を寄生させた後,水量の安定した水路で飼育を継続し鰓への寄生数や貝の成長を経過観察した.
その結果,大町産カワシンジュガイについては,ブラウントラウト,カワマスのいずれもが宿主ポテンシャルを示さなかった.また,戸隠産コガタカワシンジュガイについては,カワマスが本来魚種並み,ブラウントラウトがやや劣るが宿主ポテンシャルを持つことが明らかとなった.また,外来マスから脱落した稚貝サイズは本来魚種のものと比べて小さくはなかった.一連の実験結果から,外来魚の侵入が単純にカワシンジュガイの再生産を阻害するとは結論づけられないものの,侵入魚?二枚貝の組み合わせによっては深刻な帰結をもたらすと考えられた.