ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-295
*深野 祐也 九大理, 田中 幸一 農環研, 矢原 徹一 九大理
開花フェノロジ-は植物の適応度に影響する重要な生活史形質である.近年,地球温暖化など物理的環境の人為的撹乱によって開花フェノロジ-が急速に進化していることが報告されている.しかし外来種の侵入など,生物的撹乱に対する開花フェノロジ-の急速な進化を検証した例はまだない.本研究では,侵入昆虫ブタクサハムシの食害がブタクサの開花フェノロジ-に対して,どのような進化的影響を与えているかを,過去に採集したブタクサ種子を用いて検証した.
ブタクサは北米原産の一年草で,7月に開花し始め10-11月に大量の種子を生産する.日本に侵入して以降天敵がほとんどいなかったが,最近では1996年に北米から侵入したブタクサハムシによって激しく食害されている.われわれは,つくば市の農業環境技術研究所圃場にて1998,2000,2002,2006,2009年に採集されたブタクサ種子を発芽させ,同圃場にて栽培した.全株のうち,半数を食害区,残りの半数を薬剤処理した非食害区として,ブタクサハムシの食害がブタクサの開花フェノロジ-へ与える選択圧と,1998年以降の開花フェノロジ-の進化を調べた.
ブタクサハムシの食害はブタクサの開花後期に激しくなり,花芽形成が遅い個体ほど結実できずに枯死した.また結実できた個体でも,花芽形成が遅い個体ほど最終的な種子の生産量が少なかった.これは開花の遅い株に淘汰が働いていることを示唆する.しかし,非食害区における過去のブタクサの開花フェノロジ-を比較したところ,開花が早期化するような進化は観察できなかった.早い開花への選択があるにもかかわらず,開花の早期化が起こってない理由としては,選択圧の空間的・時間的な不均一性,埋土種子の効果などが考えられる.