ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-301
*鈴木清樹, 佐々木顕
イネいもち病は国内における稲作の主要病害であり、その作付けシ-ズン間での感染経路は不明な点が多い。一方、宿主の個体群動態については種苗組合を中心とした種子流通網が確立されており、人為的に制御可能な以下の点が挙げられる。一つに、種籾を介した原種圃場から採種圃場、そして一般圃場までの一方向の種子流通によって、年度毎に種子更新が行われている点。二つ目は、各年度にイネいもち病に対する抵抗性についての品種交替を行うことが可能である点である。種子更新は種子流通が上流から下流への一方向性が保たれている限り、下流での種子汚染から免れる効果があり、品種交替は現行のイネいもち菌のレ-スに対して抵抗性を持つ品種に切換えることで病害防除を期待するものである。
そこで種子更新と品種交替の効果を理解するための最も基本的なモデルとして、宿主集団に採種圃場と一般圃場の二つの階層性のあるパッチを想定した。各パッチ内の疫学動態は、未感染イネ(S)、感染イネ(I)、除去イネ(R)、そして自由生活のいもち病菌(X)の4状態(SIR-Xモデル)によるものであり、年度間にはいもち病菌の採種圃場における種籾越冬率と、一般圃場における圃場越冬率を考慮した。パッチ間においても隣接一般圃場からの採種圃場への水平伝搬、および圃場の各階層間での次世代への垂直伝搬を介した遺伝子流動を組込んだ。
その結果、高度防除(高濃度の殺菌剤の散布等)が行われる採種圃場からの種子更新が完全に行われた場合には、次年度への垂直伝播はほぼ抑えられるが、一般圃場での圃場越冬率が高いと病害の発生は年度毎に増加する、現実に即した結果が得られた。本発表では、各パラメ-タ領域での種子更新の効果の推定と、品種交替に踏み切る効果的なタイミングについての中間報告を行う。