ESJ58 シンポジウム S05-1
平山寛之(九大・理・生態)
動物は様々な生物的、非生物的環境の変化に応じて意思決定を行い、行動を変化させる。捕食者に対する回避行動はその最も良い例の1つである。数多くの研究から動物が自身の捕食を免れるため、捕食者の存在や過去の遭遇経験をもとに捕食回避行動の意思決定を行うことが明らかになっている。一方で、捕食は自身に対してだけでなく、子(卵)に対しても起こり、親が子の捕食に対して捕食回避行動をとることも多い。最も想起しやすいのは子を養育中の親が捕食者を撃退することなど、子の世話を行う動物が行うものであろう。しかし、産後に全く子の世話を行わない動物でも卵が捕食を受けにくい場所で産むことで子の捕食を回避することができる。講演ではアメンボが水中の深い位置という卵が捕食を受けにくい場所で産卵するという回避行動とその決定にかかわる要因を紹介する。アメンボは卵を水草などに産み付け、その後は卵の世話やガ-ドを行うことはない。卵は寄生蜂による捕食(捕食寄生)を受けるため、親が卵を産み付けた場所がその卵の生存率に強く影響する。寄生蜂は通常陸上で生活しているが、水中での活動が可能で水面下の卵にも寄生することができる。アメンボはこの寄生蜂に対し、潜水し、水中の深い位置に卵を産みつけることで卵の生存率を高めている。しかし、深い位置での産卵にはエネルギ-消費、捕食や溺死のリスク、水圧による孵化率の低下などのコストが存在する。そのため、アメンボは卵寄生リスクに応じて柔軟に産卵深度を変化させることが適応的である。講演では、産卵前に遭遇した寄生蜂の密度に応じて産卵深度を変化させること、同一個体が同じ寄生蜂密度を産卵前に経験しても産卵ごとにその深度を変化させること、といったアメンボの産卵深度の決定にかかわる研究例を紹介する。これらから動物の意思決定がいかに柔軟で複雑かを紹介するとともに、今後この研究分野で必要とされる視点について議論する。