ESJ58 シンポジウム S11-4
高宮正之(熊本大)
環境省(2007)のRLによれば、日本のシダ植物約750種のうち、CR76種・EN57種・VU53種の計186種が絶滅危惧種であり、全体の25%にあたる。シダ植物の生殖様式は、胞子が発芽して独立生活を行う配偶体を形成し、精子と卵の受精から胞子体が生じる有性生殖が一般的である。しかしそれ以外にも、根茎や無性芽による栄養繁殖や、受精を経ずに配偶体から胞子体が直接生じる無融合生殖などが知られている。また、倍数体が多いのも遺伝学的特徴である。これらの繁殖様式を把握した上で、それぞれの絶滅危惧種の集団遺伝学的性質を考慮し、保全計画を立案する必要がある。今回、様々な繁殖様式、倍数性の種を組み合わせることで、集団数や個体数が著しく縮小している4種の解析を行った。対象種は、シビカナワラビArachniodes hekiana Sa.Kurata(二倍体 2n = 82 有性生殖種 CR)、フクレギシダDiplazium pin-faense Ching(二倍体 2n = 82 有性生殖種 EN)、キュウシュウイノデPolystichum grandifrons C.Chr.(二倍体 2n = 82 無融合生殖種 CR)、アオグキイヌワラビAthyrium viridescentipes Sa.Kurata(四倍体 2n = 156 有性生殖種 次期RLでCR予定)である。各種についてマイクロサテライトマ-カ-の開発を行い、基本的に全集団全個体を対象とした遺伝的特徴を分析した。シビカナワラビは、著しい遺伝的多型が認められたが、フクレギシダでは集団間には差があるものの、集団内は全て多型の無いホモ接合体だった。キュウシュウイノデは、全く遺伝的変異が見られなかった。アオグキイヌワラビは7割が遺伝的には同一だった。これらについて、生殖様式を考慮しつつ集団特性を解析した。