ESJ58 シンポジウム S15-1
浜崎恒二(東大大気海洋研)
環境中に生息する微生物の99%以上は難培養性であることがわかっている現在、微生物群集の多様性解析は、環境試料より直接DNAを抽出し、系統分類指標として16SrRNA遺伝子をPCR増幅し、その塩基配列を決定することによって行われる。しかし、従来の配列決定技術の速度とコストでは、一つの試料について数十種程度の優占種を解析することはできても、数百〜数千種に及ぶ稀少種まで網羅しつつ複数の試料を比較することは技術的にも経済的にも困難である。本講演では、国際微生物センサスの一環として実施された、従来法の百倍の解析速度を有する454パイロシ-ケンス法を利用した海洋細菌群集の多様性研究について紹介する。南太平洋南北縦断観測によって採集された赤道、亜熱帯、亜寒帯、南大洋の4点の海水試料につき、約17万リ-ドに及ぶ16SrRNA遺伝子V6領域の配列情報を取得し多様性解析を行ったところ、各点につき300-1000のユニ-クなOTU(Operational Taxonomic Unit)を見出すことができた。見出されたOTUの約70%は、出現頻度が0.015%以下の稀少な細菌グル-プによって構成されており、ハロゲン化ヌクレオシドをトレ-サ-とする増殖活性解析によって、これら稀少細菌グル-プの少なくとも約20-50%は、休眠状態ではなく活発に増殖していることがわかった。現状では、系統解析を行うには短すぎるリ-ド長や、シ-ケンスエラ-による見かけの多様度増大の問題など、さらに検討すべき課題も指摘されているが、454パイロシ-ケンス法を利用した16SrRNA遺伝子の大量リ-ドによって、予想以上に多様な稀少細菌グル-プの存在が明らかとなってきた。