ESJ58 シンポジウム S15-2
大林夏湖,程木義邦,小林由紀,奥田昇,*中野伸一(京大生態研)
近年、湖沼の富栄養化に付随した有害藻類の分布拡大が世界的に報告されている。これまでの研究により,世界中の富栄養化湖沼で深刻な環境問題を引き起こしている有害藻類Microcystis aeruginosaには多様な遺伝子型が存在し,その遺伝子型の構成はブル-ム形成の時期や水域によって異なることが明らかとなりつつある。しかし,ブル-ム形成中のM.aeruginosaの遺伝子型多様性の時系列変化やブル-ムの規模と遺伝的多様性の関連についての知見は未だ乏しい。本研究ではMicrocystis属の分子生物地理学的情報が少ない西日本の湖沼を対象に,単離培養株を用いた種内系統解析とともに,採水サンプルからラン藻類のクロ-ンライブラリ-を作成し遺伝的多様性を評価した。また、京都大学生態学研究センタ-内の野外実験池に人為的にブル-ムを発生させ,遺伝子型構成の時系列変化を解析した。培養株を用いた系統解析の結果,各クラスタ-内に西日本の様々な湖沼の遺伝子型が混在し、各湖沼間で地理的分化が起きていないことが明らかとなった。人為的に発生させたブル-ムでのラン藻の遺伝子型動態は,M.aeruginosaとAphanizomenon issatschencoiで異なり,前者は遺伝子型の多様性が高く優占する遺伝子型が時系列的に変化したが,後者は数個の優占した遺伝子型の占有率が時系列的に変化するのみであった。以上の結果,有害藻類は頻繁に分散しており,M.aeruginosaでは環境変動に応答して遺伝子型構成が変わり,結果として時系列的に多様な遺伝子型が出現していると考えられた。また,クロ-ン分裂で増殖する有害藻類2種で,環境変動への異なる遺伝子型適応が起きていることが明らかとなった。本研究は環境省の環境研究総合推進費(D-0905)の支援により実施された。