ESJ58 シンポジウム S16-5
及川敬貴(横浜国立大学・環境情報)
変化の速度が速く、玉石混交の情報があふれる中で、将来のシナリオを描くことの重要性が高まっている。シナリオとは「将来起きる可能性のある事態について、科学的な側面、価値や経済システム、社会構造、政策、およびさまざまな確実性と不確実性を考慮しながら作成した「台本」」である。
生物多様性地域戦略には、当該地域の資源管理のシナリオの役割を果たすことが期待される。わが国における地域社会の今後を考えた場合、少子高齢社会の影響(例:里山等への「手入れ」(例:下草刈り)不足)が地域ごとに異なり、各種資源が偏在することからしても、資源管理のシナリオは日本全国で同一とはなりえない。また、地方分権の進展によって、制定法上の資源管理関連の権限の多くが、今後益々自治体へ移譲されることも合理的に予測可能である。これらの動向を踏まえた場合、資源管理については、地域の数だけシナリオが作られなければならない時代が到来しつつあるように見える。
かかる意味で、地域戦略が法律に策定根拠を有する行政計画として認められた意義は大きい(生物多様性基本法13条)。シナリオといっても、演劇のシナリオや法律にもとづかない政策文書まで様々であるが、法律を根拠として書かれるシナリオ(=生物多様性地域戦略という法定戦略)は、地域の意思決定(例:予算の配分や新たな政策的措置の提案)へ多大な影響を及ぼしうる。法律は、国権の最高機関である国会の議決を経て作られたル-ル(規範)であり、これにもとづくシナリオ(=生物多様性地域戦略)に沿って地域の資源管理の中身をデザインし、実行していくことは、間接的ではあれども、日本国民の意思を体現することにもなる。