ESJ58 企画集会 T01-3
今 博計(道総研林業試)
北海道南西部の渡島半島地域は,様々なヒグマの事故や被害が生じており,具体的で効果的なヒグマ対策の確立が急がれている。ヒグマ対策には,ヒグマの生息動向を把握し予測することが必要である。この際に,ヒグマの食料源としての植物果実の豊凶が,その年の行動圏の大小や出産数を規定している可能性が考えられる。渡島半島におけるヒグマの捕獲数は年変動が激しく,較差は5-6倍に達する。また,捕獲時期は8月下旬から10月下旬が突出しており,秋季の食物資源の変動が生息動向に影響している可能性が高い。秋季の食物資源には様々な果実が含まれるが,現存量・栄養価・年変動などから考え,ブナ・ミズナラの種子生産量が秋季のヒグマの行動に大きな影響を及ぼしていると思われる。本研究は,1991-99年,2002-2009年の渡島半島地域におけるブナ・ミズナラの種子生産量の変動およびその年のヒグマ捕獲との関係について検討を行った。
旬別捕獲数の相関分析の結果,晩夏(8月下旬-9月)の捕獲数と秋季(10-11月)の捕獲数との間には,関係性が認められなかったが,10月と11月の間には正の相関関係が認められた。これは,ブナ・ミズナラが利用できる時期を境にヒグマの行動が変化していることを示唆していた。次に,秋季(10-11月)のヒグマの捕獲数とブナ・ミズナラの豊凶の関係を明らかにするため,一般化線形モデル分析を行った。その結果,秋季の捕獲数は,オス・メスともブナ種子数とミズナラ種子数および前年の総捕獲数に影響を受けていることが明らかになった。これは,ブナとミズナラの結実量が少ない年に,ヒグマが餌を求めて人里まで行動圏を拡げ捕獲されるという仮説を支持していた。