ESJ58 企画集会 T01-4
佐藤喜和(日大生物)
北海道におけるヒグマと人間の軋轢のうち大きな割合を占める農作物への食害について,渡島半島以外の事例をもとに検討した。多くの地域で,人間と軋轢を起こしたヒグマに対する対策は,駆除である。駆除された個体の胃内容物分析により,渡島半島を含む道内全域で, 8-9月をピ-クに農作物が高い割合で利用されていることが明らかとなった。こうした食害は,年を追うごとに増加の傾向にある。その原因の一つとして生息数の増加が指摘されるが,北海道東部浦幌地域における研究では,少なくとも20-30年前との比較では増加の傾向は認められず,むしろ夏のヒグマの行動圏がいわゆる奥山よりも農地や集落に近い里山にシフトしていることによる可能性が示唆された。また,食害の程度に対する堅果類の結実量の変動の影響に関しては,秋にミズナラ堅果を主食とする北海道中央部富良野市における研究で,凶作年には農作物への食害期間が延長し,10-11月まで農作物を利用することが確かめられた。一方豊作年でもミズナラ成熟前の8-9月には農作物への食害が見られたことから,ミズナラ堅果の結実量だけでなく,農作物利用の常習化が起きていることが予想された。また,北海道東部では,農作物への食害期間が他地域より長く6-7月から発生していた。浦幌地域では,有害駆除も6-7月に多く発生する傾向にあった。その原因として,ヒグマにとっての利用可能期間の長いテンサイが食害されていることの他,同じく農作物の食害の結果駆除されているエゾシカの死体が農地周辺で利用可能であること,交尾期に当たる6-7月にヒグマへの強い駆除圧がかかることで,他地域からのオスの移入が促進されている可能性が示唆された。浦幌地域におけるヒグマの農地出没パタ-ンの解析により,ヒグマによる被害を受けやすい農地の立地条件として,山間にあり,ヒグマの生息地である森林と接する距離の長い農地があげられた。