ESJ58 企画集会 T05-1
鈴木紀之(京大・農・昆虫生態)
企画集会の導入として、群集生態学の歴史の中で繁殖干渉の研究の意義づけを行い、各演者の発表内容を簡単に紹介します。種間競争は群集パタ-ンを形作るのか、という問いは、群集生態学の黎明期から現代に至るまでの主要な論争であり続けています。ロトカ・ボルテラの競争方程式やガウゼの競争排除則に始まり、「種間競争」や「ニッチ」は生態学の中心的な概念でした。しかしその後、単純な資源競争は疑問視されるようになりました。その理由として、多くの種が同じニッチで共存していることや、多くの個体群が資源に対して平衡に達していないことなどが挙げられます。これらの「非平衡群集観」は、捕食や確率論的な作用が多種共存をもたらすという多元的な説明を経て、ハベルの「中立説」に発展しました。近年では、中立説の「すべての種の生態的特性は等しい」という現実離れした前提への反動からか、中立説の予測からの「ずれ」、すなわちニッチで説明されうるパタ-ンを検出した研究が多く見られます。
しかし、資源競争が疑問視される中、ニッチを説明する普遍的な種間相互作用はあるのでしょうか。繁殖干渉は有性生殖する近縁種間なら生じうるので、植物、植食者、捕食者など分類群・機能群を問わず存在しているはずです。そのため、近縁種間だけで分布が排他的になること、実際の競争排除がきわめて急速なことなど、中立説や従来の資源競争では説明しにくかったパタ-ンを理解できると思われます。野外に存在する無数の複雑な相互作用のうち、ニッチの形成にとってどれが重要でどれが重要でないかを調べていけば、「生態的特性が等しい」という中立説の前提の妥当性も明らかになってくると考えています。繁殖干渉による群集観の評価は、今後の実証研究にかかっているでしょう。