ESJ58 企画集会 T05-6
*奥崎穣(京大・理・動物生態), 高見泰興(神大・人間発達環境), 曽田貞滋(京大・理・動物生態)
生態的に似た複数の近縁種が共存するには、種間の資源競争と生殖干渉が緩和される必要がある。オサムシ科オオオサムシ亜属は、成虫期に多食性の捕食者であるが、幼虫期はミミズ専食である。またオスは異種のメスに対しても交尾行動を示す。彼らは分布域の大部分で2-3種が共存しており、同所的に分布する種間では体サイズが異なっている。この種間の体サイズ差は、幼虫期に捕食可能なミミズのサイズに応じた資源分割をもたらし、資源競争を緩和するかもしれない。また成虫期に異種間の交尾行動を機械的に妨げる生殖隔離として、生殖干渉を緩和するかもしれない。この2つの仮説を、京都に分布するオオオサムシ亜属4種(山間部の大、中、小型の3種、平野部の大型1種)を用いて検証した。まず、4種の幼虫(1-3齢)に様々なサイズのミミズを与えた。その結果、すべての幼虫は、ミミズのサイズに関わらず捕食行動を示した。またミミズのサイズ増加に伴う捕食失敗は、小型種の1齢幼虫期でのみ観察された。従って、種間の体サイズ差は資源分割に有効ではなかった。次に、4種の成虫で16通りの雌雄ペアを作り、交尾行動(交尾意欲、マウント、交尾器の挿入、精包形成)を観察した。その結果、体サイズ差が大きい異種ペアでは、交尾意欲があっても交尾器が届かず、挿入が出来ないペアが多かった。すなわち、種間の体サイズ差は交尾前生殖隔離となっていた。しかし、体サイズ差が小さい異種ペア(山間部の大、中型種と平野部の大型種のペア)では、大半のペアで交尾器の挿入が行われ、精包形成まで達成するペアも見られた。以上の結果から、オオオサムシ亜属種間の体サイズ差は、資源分割よりも生殖隔離として共存に貢献していると考えられる。同時に、体サイズの似た種が同所的に分布しないのは、資源競争ではなく繁殖干渉のためであることも示唆された。