ESJ58 企画集会 T07-4
*山道真人(総研大・生命共生体進化学)
藻類は水中のさまざまな動物によって捕食されるため、捕食者に対抗する多様な防御形質を進化させてきた。防御形質は捕食・被食の関係、ひいては食物網全体の構造を変えうるため、その進化動態と群集構造の間には密接な関係があると考えられる。これを検証するために、連続培養装置(ケモスタット)において捕食者である動物プランクトンのワムシと藻類を長期間培養する研究が数多く行われてきた。この手法により、防御形質の進化・可塑性が個体群動態・群集構造に与える影響を調べることが可能になり、進化群集生態学の発展に大きく貢献している。
本発表ではまず、防御の進化が迅速に起きるクロレラ・クラミドモナス系と、誘導防御が起きるイカダモ系の先行研究を紹介する。次に、これらの実証研究をもとに数理モデルを構築した自身の研究を紹介する。解析の結果、対捕食者防御の迅速な進化と表現型可塑性(誘導防御)は一見しただけでは区別しにくいが、それらが個体群動態に与える影響は異なっており、可塑性の方が個体数変動を安定化し平衡状態をもたらす傾向が強いことがわかった。また、防御型と非防御型を可塑的に生産する遺伝子型と非可塑的な防御型・非防御型が共存した場合、可塑性は変動環境で有利になるにも関わらず、可塑性自体が個体群動態を安定化するため、その間にジレンマが生じる。その結果、可塑性の迅速な進化と間欠的な個体数振動が起こりうることが示された。このような生態学的現象と進化的現象とのフィ-ドバック(eco-evolutionary feedback)について考察しつつ、藻類を用いた今後の進化群集生態学研究の方向性について考えてみたい。