ESJ58 企画集会 T09-2
*世古智一, 三浦一芸 (近中四農研), 中山慧, 安藤彰太郎, 宮竹貴久 (岡山大・進化生態)
現在利用されている栽培植物や家畜のほとんどは、品種改良を繰り返すことで人為的に育成されたものである。生物の進化と品種改良は共通点が多い。選択が自然環境によるものか、人為的なものであるのかという違いはあるものの、形質に遺伝的変異があって、選択に対する応答によって形質が変化する過程はどちらも同じである。
近年、農業害虫防除に利用する天敵類を対象に遺伝的改良が試みられている。ナミテントウは重要害虫アブラムシ類の天敵であるが、成虫は飛翔能力が高いため、放飼してもすぐに作物上から離れてしまうという問題があった。そこで野外から採集したナミテントウ集団の中から飛翔能力の低い個体を選抜し、その個体同士を交配させるという操作を世代ごとに繰り返すことによって、飛翔能力を欠くナミテントウの系統を育成した。この系統を実用化することによって、これまで化学農薬に頼らざるを得なかった多くの栽培環境において環境負荷低減が期待される。
一方、飛翔能力に対する人為選抜がナミテントウに及ぼす影響として、以下の2点が懸念される。1つは、近親交配が進行することによる生存や繁殖に関わる機能の低下である。2つめは、飛翔能力に関わる形質と遺伝的な相関関係にある形質の変化である。前者については系統間の交雑や戻し交雑などの手法によって解決できるが、後者については飛翔に関わる形質と共通の遺伝的基礎を持つため解決は困難である。本講演では、ナミテントウの天敵としての機能に関わると考えられる行動および生活史形質を対象に、飛翔能力に対する人為選抜の影響について解析した結果を報告する。