ESJ58 企画集会 T18-1
*岩崎雄一(東工大・理工),古川拓哉(横浜国大・環境情報),森章(横浜国大・環境情報)
生態学的閾値は,生態系がある状態から他の状態への急激に変化する点もしくは領域と定義される。この概念を生態系管理に適用する上で特筆すべき利点の一つは,人にとって望ましくない生態系の変化を引き起こす攪乱要因の程度(=閾値)を同定することで,その管理方法の策定に貢献できることである(例えば,水質環境基準のような管理目標値の設定)。しかしながら,その閾値の同定や応用には,観測された閾値が着目する攪乱要因の影響ではない可能性があること(例えば,自然変動の一部)や,それがどの程度一般性がある現象であるかなど複数の問題を伴う。事実,発表者である岩崎は,河川中の重金属濃度と底生動物種数の関係を調査する過程で,閾値応答を検出し,その扱いに戸惑った経験がある。
そこで,本企画集会では,閾値応答の事例紹介を含め,生態学的閾値の入門書や取扱説明書のような情報について提供・議論できればと考えている。本発表では,本企画集会を進める上での基礎的な情報として,生態学的閾値の定義やその潜在的な有用性を紹介し,上記の問題を提起したい。
生態学的閾値の利用を通して,生態系管理や生態リスク管理への貢献を目論む本企画集会は,一昨年から連続して開かれたシンポジウム「我々は「生態リスク」とどう向き合うのか?」シリ-ズの「生態学的閾値」版ともいえる。