ESJ58 企画集会 T18-4
佐々木雄大(東北大・院・生命)
近年、生態学的閾値の概念は生態系管理において主要な役割を果たすものとして注目されている。生態系管理の観点からは一般に、生態学的閾値はある生態的状態から他の状態への急激な変化が起こる点もしくは領域と定義されている。例えば、サンゴ礁生態系におけるサンゴ群集から藻類群集への移行や、放牧地生態系における多年生イネ科草本群集から一年生広葉草本群集への移行において、生態学的閾値が存在することが示唆されている。生態学的閾値を越えるのを回避する条件や指標を割り出し、管理に応用することによって、生態系が人間にとって望ましくない状態になるのを防ぎ、望ましい状態を維持することが可能となる。
しかし、生態学的閾値はその実証の難しさゆえに曖昧に定義されることが多く、また解析上の問題が潜んでいる場合もあるため、理論と実証のかい離や、生態系管理における誤用を招くことが考えられる。さらに、閾値の概念の応用においては生態系における様々なリスクや不可逆的変化の回避に主に焦点がおかれており、不可逆的変化が起こった後の生態系の修復にも応用が可能である点はしばしば見落とされている。本発表では、放牧地生態系における実証例を交えながら、生態系管理における生態学的閾値の定義、管理へ応用する際のステップおよび注意事項を解説し、今後解明されるべき課題を整理したい。