ESJ58 企画集会 T20-5
瀧本 岳(東邦大・理)
競争や捕食といった種間相互作用は、どれほど強く生物群集の種構成を決めているのだろうか?あるいは生物群集は単にランダムに移動分散してきた種の寄せ集めなのだろうか?この疑問に答える方法の1つに、地域種数-局所種数の関係を見るというものがある。局所群集の集まりを地域群集として、地域群集に含まれる種の数(地域種数)を横軸に、局所群集に含まれる種の数(局所種数)の平均を縦軸にして表した地域種数と局所種数の組み合わせを、複数地域についてプロットしたものが地域種数-局所種数関係である。もし競争によって局所群集に含まれる種の数に上限があるならば、地域種数-局所種数関係は地域種数の増加に伴い局所種数が徐々に飽和するパタ-ンを示すだろう。しかし、もし局所群集が地域群集にいる種のランダムな寄せ集めならば、局所種数は地域種数に比例して増えるはずである。この方法を用いて生物群集の生成機構を探る研究が数多く行われてきた。
ところが、従来の地域種数-局所種数関係が想定する種間相互作用は競争のみの場合が多い。近年重要視されるfacilitationはどのような地域種数-局所種数パタ-ンを生むのだろうか?数理モデルを用いた解析の結果、facilitationが働くと、1)地域種数の増加に対して局所種数が加速度的に増えるパタ-ンと、2)ある地域種数に対して局所種数が双安定を示すパタ-ンが現れることが分かった。また、過去の実証研究のなかには、1)のパタ-ンを示すものもあるようである。この結果は、地域種数-局所種数関係においてもfacilitationを考慮する必要があることを示唆している。
また、facilitationと競争の相対的重要性が、生息環境のストレス傾度に沿って変化するという概念モデルがある。本発表では、この概念モデルを数理モデルに表し解析した結果も合わせて報告し、facilitationを群集生態学理論に組み込んでいくための考察を行う。