ESJ58 企画集会 T21-2
川北篤(京都大)
イチジクとイチジクコバチの間に見られる絶対送粉共生や、アリとアリ植物の共生のように、植物と昆虫の間には、互いの存在なしには存続し得ないほど強く依存し合った共生系が多く存在する。これらの共生系は、しばしば生態系の主要な地位を占めるが、個々の生物の分布は共生相手の存在に強く依存すると考えられ、実際、こうした共生系の世界的な分布は必ずしも広くない。しかし、イチジクとイチジクコバチ、ならびにコミカンソウ科植物とハナホソガ属の絶対送粉共生は、世界各地の熱帯域を中心に著しい多様化を遂げている。さまざまな共生系の間で分布域に大きな違いが生まれた背景には、共生系自体の特性や、個々の生物の分散特性がどのように関わっているのだろうか?
コミカンソウ科植物(以下、コミカンソウ)は世界中に約1200種が存在し、そのうち約600種がそれぞれに特異的なハナホソガ属のガ(以下、ハナホソガ)によって送粉されている。ハナホソガは受粉済みの雌花に産卵し、孵化した幼虫が種子を食べて成熟するため、両者にとって互いの存在は不可欠である。分岐年代推定の結果から、絶対送粉共生は約2500万年前に起源したと考えられるが、この年代は白亜紀後期のゴンドワナ大陸の分裂や暁新世-始新世の温暖期から大幅に遅れており、陸伝いの分散で現在の世界的分布を説明することは困難である。また、マダガスカル、ニュ-カレドニア、カリブ海諸島、太平洋諸島など、世界各地の島嶼域では、両者の著しい適応放散が見られる。本講演では、両者の世界的な分布パタ-ンや、分子系統解析、分岐年代推定の結果から、共生系が現在のような分布を成し遂げた背景には、(1)コミカンソウ科において、他の送粉様式をもつ植物からハナホソガとの共生が何度も起源したこと、および(2)コミカンソウ、およびハナホソガが1000kmを超える長距離を分散できたこと、の2点が重要であったことを、さまざまな角度から検証する。