ESJ58 企画集会 T21-5
杉浦真治(森林総研)
島の面積と種数の関係は、島嶼生物地理学において最も重要な法則の一つである。島の面積にともなって種数が増加する傾向は、世界各地で見られる現象である。島の種数−面積関係は、種間相互作用数もまた面積とともに増加することを予測している。古くは食物網、最近では動物と植物の共生系ネットワ-クなど、生態ネットワ-クといわれる種間相互作用が注目されているが、これらのネットワ-ク構造が島面積にどのように影響されているかはほとんど知られていない。本講演では、小笠原諸島における花外蜜腺を介した植物とアリとの相互作用系について、島面積と相互作用ネットワ-クとの関係性を明らかにした研究を紹介する。
植物の中には、葉や芽から蜜を出し、アリをボディガ-ドとして惹きつけ、植食性昆虫による食害を減らす種類がいる。このようにアリが蜜を得る代わりに、植食性昆虫から植物を護る共生関係は、防衛共生として広く知られている。小笠原諸島のアリと花外蜜腺をもつ植物との種間相互作用の数は、島面積とともに増加した。加えて、その種間相互作用ネットワ-クの構造を示す結合度(connectance)や入れ子度(nestedness)は減少していた。このような島面積と種間相互作用に一貫した法則性が見られるなら、逆に島面積-種数関係から種間相互作用ネットワ-クの構造をある程度正確に予想できるかもしれない。
また、小笠原諸島では多くのアリや植物が持ち込まれており、アリと植物との間で観察された対応関係のうち、外来種が含まれる関係の割合は島面積が大きくなるほど高くなった。これは、大きな島ほど人の出入りの頻度が高く環境も多様なので、持ち込まれる外来種が多く、定着しやすいことと関係していると考えられる。このように、島面積は、アリと植物の共生系ネットワ-クの構造だけでなく、種間相互作用に占める外来種の割合にも影響していた。