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ESJ58 宮地賞受賞記念講演 2

食物連鎖の長さの決定機構 : 理論と実証から迫る

瀧本 岳 (東邦大学理学部)


食物連鎖の長さはどのように決まるのだろうか?C.S.エルトンによって食うものと食われるものの関係が「食物連鎖」として概念化され、食物連鎖長の自然変異が指摘されたのが80年以上前である。それ以来、食物連鎖長の決定機構の解明は群集生態学の大きな課題の1つとなってきた。古典的に主流だったのは、一次生産性や撹乱が食物連鎖長の主要な決定要因だとする仮説である。しかし近年、食物連鎖が成立している生態系の物理的サイズ(生態系サイズ)が食物連鎖の長さを強く制限しているという証拠が、湖や河川の食物連鎖において見つかりはじめた。そこで私は、数理モデルを用いて、一次生産性や撹乱、生態系サイズがどのように相互作用して食物連鎖長を決定しているのかを調べた。このモデルから、1)生態系サイズが大きくなると、食うものと食われるものの共存が促進され食物連鎖が長くなること、2)一次生産性と生態系サイズの影響には相補的な関係がある一方で、一次生産性が高すぎると食うものと食われるものの共存が阻まれ食物連鎖は短くなること、3)強い撹乱のもとでは高次捕食者が維持されないために食物連鎖は短くなるが、中程度の撹乱では食うものと食われるものの共存が促進され食物連鎖は長くなること、などが分かった。

これらの理論予測のうち撹乱と生態系サイズの影響を野外で検証するために、私はバハマ諸島の陸上食物連鎖の長さを調べた。比較的静かな内海と荒れやすい外海にある島を比較することで撹乱の影響を評価し、様々な面積の島を比較することで生態系サイズの影響を評価した。各島の上位捕食者を調べ、その栄養段階を安定同位体比分析により推定し、食物連鎖長の島間比較を行った。その結果、撹乱が強くなっても、上位捕食者がトカゲから網グモに交替するものの両者の栄養段階は違わないため、食物連鎖長に違いは生じなかった。その一方で、生態系サイズが106倍になると、上位捕食者の栄養段階が1段階増えて食物連鎖が長くなっていた。これらは数理モデルが示す定性的なパターンとも合致していた。また、この結果は、安定同位体比分析を応用した食物連鎖長研究として初めて陸域生態系での生態系サイズの影響を示したものでもある。この結果を湖や河川での例に加えて総合すると、水域生態系と陸域生態系で広範に生態系サイズが食物連鎖長の決定要因として重要であることが示唆される。


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