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2008年5月発行ニュースレター (No.15) 掲載

生態学会大会の運営について(福岡大会からのメッセージ)

齊藤 隆(大会企画委員会前委員長)

日本生態学会福岡大会を大成功の内に終えることができました。大会企画委員会を代表してまずお礼を述べさせていただきます。大会の成功は会員、参加者の皆さんのご協力の賜物です。ありがとうございました。

福岡の実行委員会をさしおいて、大会企画委員会の立場から大会を総括し、今後の対応などについて説明することは、僭越だと承知していますが、本ニュースレターの「大会案内」にあるようにすでに盛岡大会の準備が始まっていますので、前大会企画委員長の個人的な見解として、大会運営の基本的な考え方、今後の対応の方向性について説明させていただきいます。

量は質に転化する − 拡大する大会を運営するむずかしさ

精確な集計結果はまだ届いていませんが、福岡大会の参加者は2,000 名を超えたと思われますし、一般講演は1157 題(口頭発表:235、ポスター発表:922、キャンセルは除いていない)に達しました。これは、もちろん過去最高の規模です。約4,000 名の会員の半数ほどが大会に参加する活気のある学会として大いに誇るべき数字 だと思います。

しかし、大会の運営は規模が大きくなると、「量は質に転化する」という言葉通り、これまでのやり方では手に負えない問題がたくさん出てきます。2,000 人分の参加登録データをチェックする、プログラム、要旨集の編集や内容の確認をする、時間と部屋割りに制約がある中で、講演内容を考えながら1157 題の講演を配置することなどを手作業で行うことを想像していただけると、大会運営が大きな曲がり角に来ていることをおわかりいただけると思います。1,000 人を超える大会の運営にはプロが関わるのが常識だと言われています。

また、会場も大きな問題です。2,000 人の参加者が快適に講演したり、聴講できる大きな会場は限られています。ご承知の通り、福岡大会では大変立派な国際会議場を使うことができました。参加者の皆さんには満足いただけたものと思います。

生態学会に予算が潤沢にあれば、立派な会場を使い、運営を外部に委託することが可能でしょう。しかし、その予算はどこから調達すればよいでしょうか?特定の産業と結びついていない生態学会の場合、企業などから大きな援助を受けることは期待できませんし、特定の企業・団体と強く結びつくことは学会にとって好ましいことではありません。そうなると大会参加費からその予算を捻出することになります。福岡大会では、国際会議場を借り切るためにこれまで以上の経費が必要となり、大会の参加費を8,000 円(早期登録の一般参加)とさせていただきました(松山大会は6,500 円)。また、会場経費をできるだけ少なくするために大会の期間を1 日短くし4日間としました。このような予算状況で運営を外部委託することは不可能です。仮に運営を外部委託するならば、参加費をさらに2,000-3,000 円上乗せする必要があるでしょう。しかし、参加費が10,000 円を超えてしまう大会の開催を会員が望んでいないことは明らかです。

常設の大会企画委員会の設置(2005年〜)

限られた予算、人的資源、会場スペースの中で、参加者が増え続ける大会をどのように運営していくのか?このような問題について生態学会は、2000 年から「大会のあり方」について検討を重ね、2005 年に学会内に常設の大会企画委員会(以下、企画委員会)を立ち上げ、実行委員会と企画委員会の協力によって大会を運営することにしました。

企画委員会は全国の会員から選任された40 人ほどの委員からなる組織で、ボランティア精神のもとに大会の運営や検討にあたっています。運営部会、プログラム編成部会、シンポジウム部会、ポスター発表部会に分かれて、プログラム編成(プログラム編成部会)、登録受付、要旨集の編集・印刷(運営部会)、シンポジウムの企画・運営(シンポジウム部会)、研究集会(企画集会、自由集会)の編成(シンポジウム部会)、ポスター発表・ポスター賞の運営(ポスター発表部会)などを行っています。これらの仕事を継続して担当することによって、大会運営についての経験を蓄積し、負担の少ない大会運営システムの構築にむけて努力を続けています。また、中長期視点に立って大会のあり方そのものを検討することも企画委員会の重要な役割です。

企画委員会は、活気に満ちた大会を外部の業者の力に頼らず我々の手でどのように運営するのかについて日々検討を重ねています。可能ならば、参加者個々の要望に丁寧に対応して大会を運営したいと思っていますが、2,000 名の参加者の個々の事情を斟酌することがどれほど大変なことかは想像いただけると思います。ボランティアによる手作りで、2,000 名規模の大会を運営するには省力化が不可欠であることをご理解ください。大会運営の省力化を進め、運営を担当する会員の負担を減らすことは、将来、運営にかかわる可能性がある皆さんへの責任でもあるし、すべての学会員への責任でもあります。大会運営の負担が増え続けたなら、やがて運営の引き受け手がいなくなってしまうでしょう。

省力化のためのオンライン処理と締切厳守

省力化の最大の「武器」はオンライン処理です。送られてきた紙の申込書を見ながら手で入力するのではなく、申込者がオンラインで申し込んだ情報をそのままサーバ上に保存し、これを一括して自動処理することで、大幅な省力化が実現されています。しかし、登録などを締め切ってから作った印刷原稿に、あとから変更を加えるのは手作業です。一括処理のシステムを作ってしまえば1,000 件も2,000 件も処理の手間は変わりませんが、手作業が一件でも加わるとたちまちめんどうなことになります。それも一ヶ所だけでなく、プログラム、参加者リスト、要旨集、およびこれらのウェブ掲載版などで不整合が生じないように気をつけながら修正するのは、とても神経を使う仕事です。省力化のためだけでなく、ミスの混入を避けるとういう観点からも、手作業での修正は大敵です。

ですから、企画委員会では皆さんに「締め切りの厳守」を繰り返しお願いしています。

もし、皆さんの中に、「生態学会の会員であり、大会参加費を支払ったのだからサービスを受ける権利がある」とお考えになる方がいらしたら、どうかその考え方を改めてください。大会を運営しているのは参加者の皆さんと同じふつうの学会員です。各種締め切りなどの日程をにらみながら、研究・教育・その他の仕事と時間のやりくりをして運営にあたっています。そのような委員にサービスを求めるのではなく、皆さんも我々と同じように大会の運営にご参加ください。その第1 歩が「締め切りの厳守」であると理解いただけると幸いで す(詳しくは 「締め切り厳守をお願いする理由」 をご覧ください)。

パズルのような会場のやりくり

大会の運営には様々な問題がありますが、最大の問題が「数」であることはご理解いただけると思います。会場、日程の制約の中で現在の所、発表の場の確保を最優先に考えています。シンポジウム、集会(企画集会、自由集会)、一般講演の数は増加しており、会場の確保は綱渡りの状態です。皆さんから提案いただいた集会をできるだけ開催したいと考えていますが、福岡大会の準備段階では会場数が足りずに自由集会の提案を抽選で選択することが検討されました。しかし、実行委員会の奔走により会場数を増やすことができ、なんとかすべての提案を開催することができました。

発表の場の確保を最優先にすることによって別の問題が発生します。福岡大会のプログラムをご覧になってお気づきの方も多いと思いますが、プログラム編成にほとんど余裕がありませんでした。プレナリー講演としたかった受賞講演と平行して自由集会や公開講演会を開催したことは「苦肉の策」と申し上げる他はありません。また、関連性のあるシンポジウムは重複させないで欲しいとの要望に充分に対応できなかったことも承知しています。しかし、数十件の集会を限られた日程、会場に押し込む作業は難解なパズルを解くようなもので、担当部会は実行委員会、シンポ部会、運営部会からの意見を聞きながらまさに神経をすり減らしてプログラムを編成しました。今、我々に言えることは、与えられた条件の中で、すべての参加者が重複による不便を感じないパーフェクトな解はなかった、ということです。盛岡大会は会期が1 日延ばされるので、プログラム編成に少し余裕を持たせることができるかもしれません。

大変立派な会場を用意していただいたポスター会場も決して余裕がある状態ではありませんでした。「ポスターの間隔に余裕をとって欲しい」、「関連のあるポスターを近くに配置して欲しい」などの要望があることは承知しています。盛岡大会での検討課題とさせてください。 私たちは大会を日本生態学会の活力の源だと考えています。大会での発表を機会に会員になられた方も多いと思います。また、自由な形式の研究集会(企画集会、自由集会)は新しい研究課題を育む孵化器のような機能を果たしていると思います。自由集会からこれまでたくさんの研究が巣立っていきました。ですから、このような活力源となっている発表の場の確保を最優先課題として大会の運営にあたっていきたいと考えています。

シンポジウムの充実 

「数」のことばかり説明してきましたが、大会の内容をより充実したものにする努力も忘れてはいけません。福岡大会から新たなシンポジウムの運営方法を導入しました。それは、会員から企画を募集し、企画委員会からコーディネータを出して提案者と協力してシンポジウムを企画運営するもので、「コーディネータ制」と呼んでいます。コーディネータ制の利点は、(1)企画の詳細が固まっていなくても気軽に提案できる、(2)コーディネータ間で類似企画の調整をできる、(3)コーディネータの助言などによって演者の幅が広がる、(4)コーディネータがシンポ内容を熟知できるので、適切なプログラム編成ができる、などたくさんあり、福岡大会でも好評でした。この制度によってシンポジウムの内容は今後さらに充実したものになるでしょう。どうぞ積極的にシンポ企画をご提案ください。

そのほかにも課題はいろいろ

一方、「国際化問題」は模索が続いています。「日本の大学院生たちが、一人前の研究者となるには英語による研究成果の発表、討論、共同研究を遂行する能力が必要」という指摘を受け、企画委員会は英語のシンポジウム開催や英語講演を奨励していますが、大会の中にまだ充分には根付いていません。福岡大会でも内容的には充実している英語のシンポジウムの参加者数がかならずしも多くなかったこと、一般講演では英語での発表希望者数が少なく、結果として内容の関連性が薄い発表を集めた英語セッションに配置することになり、セッションとしてのまとまりに欠けてしまったことなど、国際化に関して満足できるレベルに達していません。国際化に向けて、意識の高まりが不十分ということもあるかもしれません。

このほかにも検討中の課題は「メジロ押し」です。先ほど、発表の場を確保することを優先させてきたと書きましたが、研究集会に関するすべての提案を受理できるのかどうか毎回綱渡り状態にあります。これまでのアンケート結果などから大会の会期は5 日間が上限だろうと判断しています。増加する研究集会と一般講演の数に対しては、これまで、会場数を増やすこととプログラム編成の「妙」でやりくりしてきましたが、「やりくり」も限界に近づいています。集会の総数を絞る必要はないか、などについて皆さんのご意見を伺うことになるかもしれません。

大部となって持ち歩きにくくなった要旨集の電子化も具体的に検討されています。すでに印刷体を廃止し、CD やオンラインで要旨を提供している学会もあります。福岡大会では要旨集を2,300 部印刷し、その総量は2.5 トンになりました。要旨集を電子化し、省資源に貢献することは生態学会に相応しいあり方のように思います。印刷体に対する需要や電子化した場合の問題点などについて整理し、皆さんのご意見を伺うことになると思います。

会員の総力が大会を盛り上げる

以上のように、企画委員会は毎日のようにメイルを交換して、大会の充実について議論を深めています。会員が4,000 名もいるのですから、大会のあるべき姿に対して多様な意見があるはずです。とても私一人が把握できるものではありませんし、企画委員会だけの考えを強く打ち出しても機能しないでしょう。私は、多くの会員が大会の運営に参加することによって、多様な要望を反映した内容の充実が実現されると考えています。どうか皆さん、シンポ企画、ポスター賞審査などに協力くださり、大会の運営により深く関わってください。そして、機会がありましたら、大会企画委員となって、活躍の場を広げてください。より多くの会員が大会の運営に関わることが大会のより一層の充実、日本生態学会の発展につながると思います。

企画委員会は、永田尚志新委員長のもとで4 月から新任期を迎えます。福岡大会の成果と課題を受けて、よりよい大会の実現を目指して検討を深めて参りますのでよろしくお願いいたします。