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2010年5月発行ニュースレター (No.21) 掲載
宮竹貴久(大会企画委員会前委員長)
なにもかもが予想を上回るスケールで催された第57回日本生態学会東京大会も大盛況のうちに無事に終えることができました。まずは大会企画委員会を代表してお礼を述べさせていただきます。細部では至らない点もあり参加者の皆様にご不便な思いをさせた部分もあったとは存じますが、過去最多参加者数となった盛大な大会を順調に成功させることができましたのは、まずは会員、参加者の皆さんのご協力のお陰です。ありがとうございました。
渋谷から電車で2駅に位置する東京大学駒場キャンパスというアクセスの便利さもありましょうが、総参加者数は2,386人にも上りました。そのうち一般参加は1,356人、学生参加者は1,030人でした。公開講演会への一般参加者や高校生の参加者を含めると2,500人を超えたのではないかと思います。その分、東京大学と首都大学東京を中心とした関東地区の会員で構成された大会実行委員会の準備のご苦労は大変なものだったと思います。東京大会は、当初は関東地区の大規模商業施設を借りて行う予定でした。しかし、会場賃貸費が高いなど生態学会を開催するにはいくつかの問題点があることがわかり、大会参加費を高額に設定しなければならないことがわかりました。そこで大会実行委員会の判断により、開催1年前に急遽、東京大学駒場キャンパスを主会場とした大会開催を決めました。参加人数の激増から受付や会場業務を業者に手伝っていただくことになりましたが、業者スタッフの人数は最小限に抑え、ほとんどの大会実務をボランティアの大会実行委員と学生アルバイトでまかなうことになりました。その分、会場賃貸費用をはじめとする諸経費を抑えることができ、大会参加費を大きく値下げすることができました。これもまた参加者数の増加につながったと考えられ、企画側としては大変嬉しい悲鳴になったのでした。
ご存じのとおり生態学会では、第52回の大阪大会から大会企画委員会が結成され、開催地区が組織する大会実行委員会と両輪の和を持って大会を支える体制を築いて来ました。大会企画委員会は50名のボランティアスタッフで組織されています。シンポジウム部会(シンポジウムのコーディネート業務、各種集会の会場割り振り)、ポスター部会(ポスター講演の割り振り、ポスター賞審査の段取り)、発表編成部会(口頭発表の順序と会場決め、プログラムの編成)、広報部会(広報活動、広告協賛対応、マスコミ対応)、運営部会(登録受付、プログラム及び要旨集の編集・印刷など)の各部会に分かれて、大会実行委員会、及び学会本部と歩調を合わせ、開催一年以上前から東京大会に向けての準備を進めてきました。その間、準備に向けてメーリングリストで議論されたメールの数は1,500を超えました。集会のコマ数のはめ込み、ポスター展示の段取り、ポスター審査の段取り、プログラムの作成、講演要旨集の作成、諸委員会会場の手配、ウェブページの整備、学会本部と の連携、託児所や昼食場所の確保など大会実行委員会との連携など、大局的なところから細部にわたる大会の運営方法について様々と議論し作業を進めてきました。また150件を超える大会ウェブページへの問い合わせにも委員会内で役割を分担し、その都度処理・対応してきました。
会員による集会等の企画意欲も大変目覚しいものがあり、その結果、大会期間中に催された公式集会数の企画・応募は52件に達しました。そのうち大会シンポジウムは19件、フォーラムが3件、企画集会は31件であり、活発な研究成果の発表と討議が行われました。このほか15件の自由集会が開催されました。東京大会ではとくに今年秋に名古屋で開催されるCOP10との関連から、生物多様性に関する企画外の集会を公式集会とは別に、生物多様性関連集会と称して3件実施することができました。また大会最終日の3月20日には、生物多様性条約をテーマとした公開講演会「なぜ地球の生き物を守るのか?―生物多様性条約が守る自然の価値」も開催され、東京大学本郷キャンパスの安田講堂がほぼ満員となり、素晴らしい基調講演と活発な議論が行われました。これらも併せて生物多様性の重要さをより強く印象付けられる記念行事的な大会の色合いも出せたのではないかと思います。
釧路538、大阪538、新潟646、松山737、福岡931、盛岡862。これらの数字は、第51回釧路大会から昨年の盛岡大会までのポスター発表の数です。そして東京大会、ポスター発表の数はついに千を超え1,009題と過去最大となりました。その結果、会場となった体育館は連日熱気に包まれました。会場が混雑しておりましたが、千を超えるポスターをうまくさばくことは至難の業でした。東京大会ではポスター発表の大幅な増加が予想されたため、事前に賞応募の資格を設けました。すなわち過去のポスター賞受賞なし、または優秀賞1回まで、ポスドク2、3年目までという制限を設けたのです。その制限にも関わらず、前回の盛岡大会とほぼ同数の534題のポスターが審査対象となりました。そのため、約130名の審査員のご協力のもと、101題(最優秀賞20題、優秀賞81題)にポスター賞を授与でき、これも数では過去最高記録、授与率でもここ数年の最高となりました。高得点で僅差のポスターも分野によっては見受けられました。ポスター発表がこれほどの規模に内実ともに成長したことは喜ばしいことです。一方で、表彰などの準備に一部、配慮が行き届かなかった点があったことはお詫びいたします。今後の大会に向けては、発表の場の時空間的制約や審査員の確保の難しさのなかで、さらに制限を強化しなければならない時期にあることも確かです。これについては、現在ポスター部会において議論中で、詳しくは9月のニュースレターで報告できる予定です。指導的立場にある会員の皆さまには、周囲のポスドク以上の若手研究者に、口頭発表や各種集会での講演を勧めてくださるようお願いいたします。
また大会実行委員長の熱意にも後押しされた形で、今大会から高校生ポスター発表という新たな企画も行ないました。最初はどのくらいの応募があるのか不安でしたが、ふたを開けてみれば29題もの高校生による意欲あふれるポスター発表が行われ、高校生ポスター発表も審査員のご協力のもと表彰を行うことができました。高校生による発表は、マスコミの関心も高く注目を浴びましたし、何よりも高校生の生態学への熱意をエンカレッジすることができたと思います。
ポスター講演に加えて口頭発表にも203件の申し込みがあり、一般講演数の合計は1,212件に上りました。まさに空前絶後の規模の盛況な大会であったと思います。ちなみに一般口頭発表の数は、釧路312、大阪212、新潟179、松山171、福岡238、盛岡178です。一方で、ポスター発表数の増加は、大きなポスター会場の確保の困難さ、多大な数の審査員の確保、審査結果の集計の手間が非常に煩雑で大変であるなど、実務的に限界に近づいているところもあります。その半面、口頭発表会場では、ひとつの会場内において前後する講演内容の関連性が希薄になった箇所などもあったりして、すでに来年の札幌大会に向けた新大会企画委員会において、今後、どのようにこれらの問題を整理していくのかについて、議論が開始されています。
また東京大会においては、これまで大会実行委員に任せてきた広告およびマスコミへの学会の宣伝対策について、企画委員会に広報のセクションを設けて新たな取り組みを展開しました。そして過去の大会での広報の実績を集約し、より機能的に学会の広報を行うことができました。その成果のひとつとして、ランチョンセミナーの開催が実現でき、多数の参加者がお弁当を食べながら、学会誌への投稿、あるいは査読のテクニックを学べたのも有意義な機会になったと思います。
以下のことは、2年前の大会報告で当時の齊藤企画委員長がすでに述べられている内容ではありますが、改めて書かせていただきたいと思います。できることなら参加者個々の要望に丁寧に対応して大会を運営したい。しかし、そうは言っても2,000名を超える参加者の要望やご事情をすべてお聞きするのがどれほど大変なことかは想像いただけると思います。ボランティアによる、手作りで大規模の大会を運営するには省力化が不可欠であることを重ねてご理解いただきたいと思います。大会運営の省力化を進め、運営を担当する会員の負担を減らすことは、将来、運営にかかわる可能性のある会員皆さんへの責任であると思います。このまま大会運営の負担が増え続けたならば、やがてボランティアによる運営は破綻し、非常に高額な参加費の負担を参加者に余儀なくされるでしょう。
省力化に対処するためには、オンライン処理が欠かせません。送られてきた紙の申込書を見ながら手で入力するのではなく、申込み者がオンラインで申し込んだ情報をそのままサーバ上に保存し、これを一括して自動処理することで、大幅な省力が実現されているのはご承知のことと存じます。このシステムの構築もすべてボランティアによって行われています。しかし登録などを締め切ってから、作った印刷原稿にあとから変更を加えるのは手作業になってしまいます。大規模情報を一括処理できるシステムも、手作業が一件加わることで、たちまち非常に面倒な作業を強いられることになってしまいます。それも何箇所も、プログラム、要旨集、参加者リスト、ウェブ掲載情報などで不整合が生じないように気をつけながら修正する作業は、とても神経を使う大変な作業です。省力化のためだけでなく、ミスの混入を避けるという点からも、手作業の修正は極力避けたいところです。
諸事情により登録の締め切りに間に合わなかった会員のなかには非情に感じられる会員の方もいるかもしれませんが、繰り返し「 締め切り厳守をお願いする理由 をご覧ください、と申し上げます。皆さんのなかには、生態学会の会員であり大会参加費も支払っているのだからサービスを受ける権利があるのは当たり前というお考えもあるかも知れません。しかし、大会はビジネスで運営しているわけではありません。大会を運営しているのは参加者の皆さんと同じふつうの会員のボランティアです。毎年、大会報告に書かせていただいていることではありますが、改めてご理解のほどよろしくお願いいたします。
しかし、大会の規模が大きくなるにつれて、ポスター発表の形態はこのままで良いのか? スケジュールにもっと工夫はできないのか? 集会の持ち方にももっと可変性が認められても良いのではないか? など様々な意見が企画委員会内でも飛び交い、今も議論を続けているところです。会員の皆さまからの新しいアイデアや自由な発想は大歓迎ですし、真摯に検討させていただきたいと思います。ただし、それを実際に運営する場合に、プログラムや集会の持ち方のどれひとつでも変更すると、様々なほかのセクションにも影響が及びますので慎重に運営を改善していくことが肝要です。大会企画委員会では、会員の皆様からいただいた新しいアイデアも積極的に考慮し、実際の運営との整合性を考えた上で、時代の流れにフィットした大会企画を是非、実現してゆきたいと考えています。また会員の皆さんに、どうぞ積極的に大会の企画・運営に参加していただきたい。より多くの会員が大会の運営に関わることこそ、大会のより一層の充実、そして日本生態学会のさらなる発展につながると思います。
1年間、取りまとめ役をやらせていただき、常に悩んだことがあります。参加者からのいろいろなご要望、問い合わせがあります。できる限り、個別のご希望を聞いてあげたい。しかし、誰かの希望を聞いたために、全体のバランスが崩れて、別の方のご希望には添えないことに結果的になってしまうこともあります。それは会員内にとても不公平感を産んでしまうことになります。たとえば、発表数がどんどん増えている中で、発表の重複制限についても議論がありますが、どなたかの希望を聞くために、正直者がバカを見るという事態は絶対にあってはなりません。一年間、常に頭を悩ませた結果、結局、常にルールに従うしかないという結論に至ります。なぜ私の希望は聞いていただけないのか? 理不尽な思いをされた方もあると思います。その際には、平にご容赦いただきたいと思います。ルールはまだまだ完璧ではありませんし、学会の形態が時代の流れと共に変化し、よりその時代、時代にあった学会の活性化を考えるためには、ルール自体も変えていく必要があります。これからも参加者の皆さんの希望に添えるようなきっちりとしたルール作りを目指してゆきたいと考えています。すでにそのような議論は、今日もメール上で活発に検討されていることをご承知置きください。それにしても参加者2,500名を超える学会大会の準備が、普段は大学や研究機関で勤務されているボランティアの人たちですべてまかなわれているというのは、改めてとても奇跡的なことのようにわたしには思えます。その裏方には、何名もの方々の、普通では考えられないような、生態学会に対する熱い思いに支えられた奉仕活動が続けられていることを、皆さんにどうかご理解いただきたいと思います。
大会企画委員会は、大手信人新委員長のもとで4月から新任期を迎えています。東京大会の成果と課題を受けて、まずは札幌大会のさらなる成功、そして将来に向け、生態学会の伝統である研究者個々人の自由な学問への思いを大切にしつつ、なおかつ今後ますます重要になる社会への生態学・環境学からの貢献を達成できるよりよい大会の実現を目指して、日々検討を深めて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。