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2012年5月発行ニュースレター (No.27) 掲載
榎木 勉(大会企画委員会前委員長)
第59回日本生態学会大津大会(ESJ59)は第5回東アジア生態学連合大会(EAFES5)との合同大会として開催されました。約2500名という多くの方にご参加いただき、非常に活気ある大会となりました。EAFES5のシンポジウムや式典も盛況で合同大会は成功裏に終えることができました。これも参加者の皆さんのご理解とご協力によるものです。大会企画委員会を代表して御礼申し上げます。また、この大規模な大会を現地で周到に準備し、当日の運営から開催後の様々な対応までを円滑に行なっていただいた大会実行委員会の皆さんのご尽力に感謝申し上げます。EAFESに関する様々な国際的な要件の対応にはEAFES実行委員会の皆さんに引き受けて頂きました。大会実行委員会の皆さんとの適切な役割分担と連携により合同大会の開催が可能なものとなりました。ありがとうございました。
今期の大会企画委員が集まり、大津大会の準備を本格的に開始したのは一年前の札幌での大会企画委員会からでした。札幌大会開催期間中に発生し、多くの方が被災された東日本大震災の影響は未だ大きなものがあります。一日も早い復興を心よりお祈りいたします。一年が経過した大津大会では、震災による困難を乗り越えてまとめられた研究成果の発表や、生態学の災害への対応や生態学の震災復興への貢献を主題とした集会の開催もありました。生態学、生態学会の役割や使命を実感する大会でもあったとも思います。
大津大会は日本生態学会としては、6年前の新潟大会以来、2度目のEAFESとの合同大会でした。日本生態学会大会の運営方式が大きく変わり、開催地の地元で組織される大会実行委員会と学会に常設される企画委員会との連携体制で運営するようになったのも新潟大会からでした。それまでは開催地の地区会員で組織する実行委員会が、大会業務全てを担当していました。しかし、年々拡大する大会規模に対し、実行委員会の負担が大きくなりすぎ、運営が困難になっていましたので、特に現地で行う必要がない業務は大会企画委員会が担当することになりました。
多くの方が実感されていると思いますが、新潟大会以降の6年間においても、生態学会の大会規模は拡大しています。55回福岡大会では一般講演が1000件を越え、56回盛岡大会では参加者が2000名を越えました。57回東京大会では参加者数が2500名を越えたとされ、ニュースレター21号に掲載された東京大会レポートでは「史上空前規模」と表現されました。東京で開催されると参加者が2割増しになるとも言われていましたが、その後、この規模は開催地が札幌、大津に移っても同程度に維持されています。大津大会では、この原稿執筆時の集計で、総参加者数が2456人、一般講演が1467件(口頭発表277件、ポスター発表1130件)、公式集会数が51件(ESJシンポジウム10件、EAFESシンポジウム11件、EAFES特別シンポジウム5件、フォーラム5件、企画集会20件)、非公式集会である自由集会が32件、高校生ポスター発表が35件と、合同大会ではありますが、規模としては東京大会を上回っていたと言えるでしょう。
このような大会規模の拡大の背景の一つには、会員に可能な限り研究発表の場を提供するという生態学会の理念があります。企画委員会でも、基本的には希望した全員が講演できるようにしています。しかし、時間と場所は限られていますので、幾つかの制約を設ける必要があります。また、この制約によって一部の人が不利益を被らないよう、平等性を確保する必要があります。この様な条件をみたすことを基本方針とした上で、生態学会ではボランティアベースで大会を運営しています。運営の外部委託という選択肢も常に議論されていますが、外部委託のためには予算を確保する必要があります。経済的な後援が比較的少ない生態学会では、外部委託のための予算を確保するには大会参加費を増加させる必要がありますが、現時点では参加費増加は避けると判断しています。大津大会では、運営の一部を外部委託し、大部分は大会実行委員会と大会企画委員会の連携で行いました。ボランティアベースでは、担当して下さる方々の負担を下げるためにも運営の省力化が必然となります。大会企画委員会では、オンラインシステムの充実化など運営効率を上げる努力を何年にもわたり進めています。しかし、大会がおかれている状況は年々変化しますし、これまで気づかなかった不具合に気づくこともあります。
大津大会は、EAFESとの合同大会として開催されることが決まっており、多くの困難が予測されていました。大会実行委員会と大会企画委員会は、様々な想定をした上で準備に入りましたが、大会企画委員長の読みの甘さや対応能力のなさを実感することが多々あり、大会に参加される皆さんにはご迷惑やご不便をおかけしたこともありました。このレポートをお読みいただくことで、その事情のいくらかをご理解いただければ幸いです。
大会でのポスター発表数は東京大会以降も増加し続けています。大津大会ではポスター発表の申込者数がポスター掲示可能な枚数を上回り、多くの方に口頭発表に移動して頂くことになりました。最終的には、ポスター発表は一般のポスターが1130件、これに高校生ポスターの35件が加わる形で実施されました。大会実行委員会には会場の選定にあたり、前年と同程度かそれをやや上回る数のポスターが掲示できるポスター会場を確保していただいていますが、大津大会ではポスター発表希望者は予想を上回ってしまいました。講演申し込み時点では、すでに会場の大きさとポスターの掲示時間は変更できない状態にありますので、掲示可能なポスター数を増やすためには、ポスターの間隔を詰めるほかありません。しかし、狭い会場に多くのポスターを掲示することは、発表や質疑応答に支障をきたすのみでなく、安全管理上の問題もあります。災害発生時の避難方法なども合わせて検討いたしますと今大会ではこれ以上のポスターの詰め込みは不可と判断いたしました。ポスター発表の希望にお答え出来なかった皆さんにはこの様な事情をご理解していただきたいと思います。
大津大会でポスター発表希望者が急増した理由の一つにはEAFES5との合同大会であったことが考えられますが、次大会以降も相当数のポスター発表の申込があると思われます。ポスター発表希望者数が掲示可能枚数を上回った場合、今後も大津大会の様に口頭発表への移動をお願いするかどうかは検討しておく必要があります。ポスター会場のスペースが確定されれば、一度に掲示できるポスター数も決まります。発表希望者が掲示可能な枚数を越えると予想されれば、ポスターの掲示時間を短くし午前と午後で掲示ポスターを入れ替える一日二部制にするということも考えられます。しかし、二部制とした場合、コアタイムを口頭発表やシンポジウム開催時間を避けて設定するのはかなり難しいでしょう。あらかじめ抽選を行うなどしてポスターの枚数を制限するということも考えないといけないかもしれません。
口頭発表は、ポスター発表から移動していただいたこともあり、ここ数年では最も多い数となりました。ただし、ポスター発表と比較すると、おおよそ四分の一であり、この数字は、新潟大会以降わずかずつ減少しています。口頭発表とポスター発表のどちらにもそれぞれの利点がありますが、発表数で言えばポスター発表の人気が高い状態が続いています。これにはポスター賞の影響が大きいと思われます。口頭発表を盛り上げるためには、口頭発表にも賞を設置すればという案も検討されていますが、審査方法をどうするかなど課題は沢山あります。もとより大会における口頭発表とポスター発表のありかたについても検討しておく必要があります。
ポスター賞が研究活動の励みになっているという声をうかがうことは多々あります。大会を運営する側にとっては大変ありがたいお言葉です。一方で、ポスター賞の運営には多岐に渡る準備が必要です。ポスター部会がこの役割を担うのですが、中でも審査員の確保は毎回心配することの一つです。大津大会では174名の方に審査員となっていただきました。ご協力ありがとうございます。今回は試行として英語で作成したポスターのみをポスター賞の対象としました。またEAFES5との合同ポスター賞としたこともあり、審査基準もそれに合わせて変更することにもなりました。この合同ポスター賞については「大会の国際化」のところでもう少し述べます。
大津大会では公式集会と非公式集会を合わせて83件の集会が開催されました。これは盛岡大会の87件について過去二番目に多い数です。様々な集会が数多く企画されることは学会の活性の高さを示していると思います。また、どの会場にも多くの聴衆がみられ、企画のすばらしさや大会参加者の積極性を感じました。一方で、企画される集会数の増加にともなう問題もあります。開催される集会の数が増えれば、参加する集会の選択肢が増えますが、参加したい集会が同時に開催される確率も増えます。また、生態学会の大会は開催期間が長い、一日だけを見ても朝から晩まで長い、という言葉を耳にすることがありますが、大会では各種研究集会の他に一般講演(口頭発表とポスター発表)があり、加えて総会、受賞記念講演、各種委員会などもあります。大会企画委員会、大会実行委員会では、可能な限り多くの研究発表の場を皆さんに提供できるように、会場の使い方を大会ごとに検討しています。ご理解をお願いいたします。また、参加者の皆さんに平等に発表の機会を提供するために、発表の重複講演を制限させていただいています。これは限られた場所と時間を分け合うための制限です。ご協力もお願いいたします。
その他にも大会運営には制約を設けています。 「締め切り厳守をお願いする理由」 につきましては、多くの皆さんにご理解をいただき、大津大会の運営においても多大なご協力をいただきました。一方、「どうしてこんなに融通が効かないのか」、「もっと規模の大きな大会でも何とかなるのに」というようなという声もあります。この融通の効かなさについては、公平さを確保した大会運営をボランティアベースで実現するためのものですが、それらの声や大会企画委員、実行委員の経験などから、より皆さんに納得していただける運営方法を模索し、年々改訂が加えられています。より良い大会運営のために有益な情報や建設的なご意見をお寄せ頂きますようお願いいたします。
生態学会では大会の国際化を推進しています。将来計画委員会からの「日本の大学院生たちが、一人前の研究者となるには英語による研究成果の発表、討論、共同研究を遂行する能力が必要である」という指摘を受け、大会の講演時の英語の利用を推奨してきました。この数年、口頭発表においては、英語での発表・討論を経験する機会を提供し、日本語を解さない参加者との交流を図るために、英語での発表を歓迎しています。国際学会との合同大会である大津大会では、国際化推進のためのいくつかの措置を講じました。その一つが、英語で作成されたポスターのみをポスター賞の対象としたことです。この決定までの議論には様々な意見がありました。明らかに日本語話者しかいない場所で日本語を禁じることは議論を深めるためには無駄ではないか、という意見もありました。実際、当日ポスターの前で思ったより議論が進まなかったという声も聞きました。一方で、ポスターの前で日本語でのみ質疑応答がなされている状況では、非日本語話者が議論に加わりにくいのではないかなどの意見もありました。英語での質疑応答に抵抗を持たない人、多少の不便は感じながらも英語のみの利用を支持する人もおられました。ポスター賞応募についての使用言語の制限は大津大会のみでの試行でした。次回静岡大会では一旦従来の形に戻します。大津大会でのポスター賞運営のあり方については、会員の皆さんからのご意見を伺うべく、将来計画委員会によってアンケートが実施されました。たいへん多くの回答を得たアンケート結果は現在集計中です。この結果も考慮し、今後のポスター賞の運営を検討します。
ポスター賞以外にも大会の国際化やEAFESとの合同大会の是非についてはみなさんの考えを伺いたいと思います。各種集会を企画していただいた方々にお願いしたアンケートでは、まだ詳細な分析はおこなっていませんが、海外からの参加者がほとんどいなかったシンポジウムや企画集会がかなりあったようです。その理由は様々だと思いますが、海外からの参加者を増やすためには、投影資料やポスターに英語を併記したり使用言語を英語にしたりするだけでは済まない運営上の問題が多々あります。会員登録、大会参加登録、参加費の支払い方法などの準備段階においても各国の諸事情を考慮する必要があります。大会当日においても会場係を含めた案内の整備など多くの対応が必要になります。
大津大会で最も苦慮したことはEAFES5と合同大会として運営することでした。大会の国際化とは別にこのことについて述べておきたいと思います。大津大会にむけての大会企画委員会が具体的な準備を本格的に開始した一年前の段階では、ESJ59とEAFES5を合同で行うことが決まっていました。これは同じ場所で同時に2つの大会を実施することが決まっていたということです。国際大会との合同大会では外国からの研究者と交流する機会が増えます。また、双方の大会に参加者の増加など相乗的な効果も起こりうると考えられます。実際、大津大会では多くの後援、多くの参加者がありました。合同大会開催に向けて、まず大きな方針を検討しました。例えば、EAFES5とESJ59を完全に一つの国際学会として両者の区別がないような運営も考えられました。この場合、大会案内や申し込み手続きから始まるあらゆる場面で使用する言語を英語にする(自由集会は公式行事ではないので除く)ことになります。ほかにも、ESJ59の部分はこれまでどおり大会実行委員会と大会企画委員会が運営し、EAFES5の部分は別の組織で運営するという方法も考えられました。その他にもいろいろな選択肢があるのですが、それぞれにメリット・デメリットがあります。最終的には今回開催された形になりました。EAFES5とESJ59は区別されるが、ポスター発表は合同で実施する、ただしESJ59としてのポスター発表もある、などです。この部分だけをみても大津大会の構造の複雑さを感じます。
実際、従来の大会運営システムの拡張を合同大会に対応させるために手探りで準備を進めていました。特に、EAFES5の方針はEAFES参加国の意向と照らし合わせながら決められました。一年間でこのようなことを全て行うのはかなり無理があったと思います。例えば、EAFES5の講演はシンポジウムとポスター発表のみとすることが決まりました。シンポジウムの企画において生態学会大会ではコーディネーター制をとっていますが、EAFESのシンポジウムはどうするか、ポスター賞はどうするかなどは、その後決めることになります。その他にも登録方法、会員資格のチェックなどの作業があります。これまで日本生態学会大会では優れたオンラインシステムと各部会の機能的な役割分担と連携が大会企画委員会によるボランティアベースの運営を支えてきましたが、今回の合同大会への対応にはいくつかの困難がありました。運営システムの構造が複雑になり情報の伝達と集約に必要な時間が十分ではありませんでした。結果として、企画委員会、実行委員会の皆さんの高い対応能力で合同大会の運営を進めることができましたが、ボランティアベースでお願いできる仕事量を越えてしまったのではないかと思っています。
来年は日本生態学会が設立60周年を迎え、次期静岡大会は60周年記念大会となります。現在、大会企画委員会では陀安一郎委員長のもと、静岡大会への準備が進められ、すでに実行委員会と連携し、大会会場の諸事情に応じた運営案が議論されています。
大津大会の準備期間の一年は、私個人としては、学会における大会の意義について考えた一年でもありました。大会は研究成果の発表をはじめ各種情報交換の場であり、学会の発展につながる非常に重要なイベントです。しかし、大津大会の運営に携わっていただいた皆さんにとっては大会のための学会というような状況にしてしまったのではないかと反省しています。
大津大会では、大会の国際化へ向けての課題がみつかり、複数の組織の合同大会の難しさを実感することができました。いずれの問題も既存のシステムに単に何かを付け足すくらいでは対応できないことが含まれますので、根本からの検討が必要でしょう。次回EAFES大会が日本で開催される2018年における日本生態学会の状況は今とは大きくことなることも予想されます。それはEAFES関係国においても同様でしょう。その様な変化に対応するためにも、大津大会での教訓を忘れないようにすること、今のうちから早めに検討しておくことが必要です。なによりも大会は会員の皆さんによって成り立つものですから、ご意見をおよせいただくなど大会の運営に積極的に関わっていただきたいと思います。最もお勧めいたしますのは大会企画委員として活動していただくことです。より良い大会を実現するために、生態学会をより一層発展させるために、どうぞよろしくお願いいたします。
*以下に、ポスター賞の審査をしてくださった皆さんのお名前を記して、あらためてお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。
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(敬称は略させていただきました。また、この他1名の方が匿名を希望されました。)