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会長からのメッセージ −その18−

「共同参画その他」

 男女共同参画のシンポジウムに出席するために東京に行ってきました。その日は台風が行き過ぎたという大嵐の日で、会場まで傘をさして歩いていくだけでびしょぬれになるという天気でしたが、シンポジウムは世間知らずの私にとってはすごく勉強になった。最初はM字型カーブというのが出てきて、つまり縦軸女性の就業者数、横軸年齢のカーブが、出産育児の時期に中凹になるというものです、子供の産めない人たちが集まって、産みたくないといっている人たちに産めと強制するわけにもいかないじゃないか、などと斜に構えて聞いていたのですが、学問における多様性を高めるためには多様な人たちの参画が必要であるということが基本にあるということで、なるほどと、納得しました。それで、実際の数字ですが、欧米では女性研究者の比率が30%であるのに、日本が10%ということで、これを何とかしなければいけない。文部科学省では数値目標(25%)を出しているわけですが、実際に実行されるかどうかは、大学等がやってくれるかどうか、にかかっているわけです。それで全国10大学でモデル事業を立ち上げて、やり始めたところである。たとえば、業績審査の際同等の業績であれば女性優先にするとか(名古屋大学)、女性を雇えば、その人件費のいくらかを大学本部が負担する(北大)とか、保育所を作るとか等々ですね。

 企業の方も出席しておられて、企業では学会等の先導的役割をお願いしたいというふうなリップサービスをしておられましたが、実際は企業のほうがずっと進んでいて、M字型曲線?そんなものはうちの会社にはありません(リコー)というようなことでした。たぶん企業においては、誰かが休めば、代わりの人が働くとか、補充するとかは、普通のことで、それが研究職にも援用されるのだろうな。規模は巨大企業並だが、実態は個人経営の大学ではそこがうまくいっていない。

 で、日本生態学会ですが、各種委員会には女性委員を必ず入れて欲しい、といった簡単に出来る取り組みは巌佐会長時代に行いましたし、大会時に保育所を設けるということもやってきています。ここ2年間は女性会長を戴いていたということで、我が学会は随分先進的だろう、と思いきや、学生会員では女性比35%程度であるのに、一般会員では15%以下というのが実状で、ほぼ平均的なところに位置します。15%を30%以上にという方向と、学生会員35%を50%に高めるという二つの方向への努力が必要とされるのですが、後者に関しては、女子高校生(中学生)を対象にした取り組み、夏の学校、などが考えられます。女性学者のモデルというと、いつもキュリー夫人が出てくるのですが、いつまでもキュリーでもなかろう。むしろ輝いている学生会員が女子中高校生へのモデルとなって欲しい。前者の問題は学会だけでなんとかなるというわけには行かないでしょうが、学会でもいろんな働き口を作ること、学会内で活躍していただくことが間接的に、役に立っていくのではないかと考えている。前回の全国委員選挙では、全国委員会から何名かの女性会員を「推薦」するということをしたが、この方法が良かったのかどうか。議論の必要なところです。

 帰りの飛行機は、やはり嵐のために大幅に遅れ、風雨の中をずぶぬれになりながら家にたどり着いたのは深夜であった。お疲れさま。

 東京から帰って、今度は能登半島の先端珠洲市まででかけました。東京へ行くのと同じ時間がかかります。これは金沢大学の中村浩二さんが仕掛け人の能登自然学校の立ち上げシンポジウムに出席したのです。私にだってたまにはこういうこともある。珠洲市の使われなくなった小学校を一つ借りて、そこを拠点に能登の里山、里海を研究し、かつ能登の活性化をはかるというもので、大学の研究者だけじゃなくて、現地の人たちを駐村研究員にしてしまって、一緒にやっていこうという面白い発想のもとにつくられたものです。シンポでは日高先生の軽妙な基調講演、柳さん(九大)のマイクに噛みつきそうな気合いの入った話(里海を広辞苑にSatoumiを英語辞典に載せるんだと言っていたような気がする)そして中村さんの重厚な計画を聞いて、やはり世間知らずの私には大いに勉強になった。運営委員会にはどこからこれだけの人たちを集めてきたかと思うような多彩な人たちが集まって、議論をされていた。中村さんの底力に脱帽。

 しかし、還暦を何年も前に過ぎたような男が「勉強になった」とだけ言っているようでは実に心許ないことだね。これからはもっと若い人に出席していただくようにしましょう。

▲この日は天気が良くて、能登半島から富山湾を超えて、立山を望むことができた。