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会長からのメッセージ −その41−

「生物学オリンピック」

 高校生を対象にした数学オリンピックというのは、比較的有名だが、物理、化学などと並んで、生物のオリンピックもある。日本が参加し始めたのは比較的遅く数年前のことである。その最初の頃に、日本生態学会としても、生態学教育専門委員会が中心となって、委員の久保田康裕さんを偵察要員として派遣した。オブザーバー的な派遣のつもりであったけれども、実際は都合良く働かせられたようだ。英語で出題された問題を読み、それについてコメントを出す。同時に、問題を日本語に翻訳する。そして採点。これらを同時進行で行うから、相当ハードな仕事になるという。これは久保田さんが日本生態学会誌にレポートを書いている。数年前の号だ。やはり暗記物的な問題が多く、同じ問題でもこのように問えば思考力を試す問題にできるのに、といった久保田さんらしい問題提起もなされている。

 その生物オリンピックが2009年に日本で開かれるという。他の国で開催予定であったものが、その国の都合によって、日本にお鉢が回ってきた。事務レベルでは、準備時間も短く、国内体制も整っていないということで辞退の方向であったが、最近の中高生の理科離れの情勢から、無理をしてでも引き受けようということになったようだ。日本政府も当然財政的支援をすることになっている。問題を作成するだけでなく、それを参加各国語に翻訳しなければならないから、日本人だけで頑張ってもできることではない。

 さて、問題は日本生態学会はどう関わるかである。分担金を出し、出題委員も出し、積極的に関わるか、分担金だけ出す、出題だけ協力する、等々からなにも協力しないまでの、アンケートが生物学学会連合から来ている。日本の高校生物教育の、進化や生態に関する扱いはきわめて悪いのであるが、オリンピックのなかでは、それらの問題比率はかなり高いという。生態学についての認識を高めて貰うためには良いチャンスであるから、是非積極的に関わるべきではないのか、というのが私の意見である。奇しくも2009年はダーウィン生誕200年、種の起源発刊150年という節目の年だそうである。また翌年2010年には化学オリンピックも日本で開かれるという。したがってこういった催しものを一過性に終わらせるのではなくて、これを機会にして生物学のあるいは理科の地位を高め、日本の科学教育や科学の進歩に貢献しようというのが主催にあたられる方々のお考えのようである。

 問題はですね、みなさんお忙しいのに、またまた仕事が増えてしまうというところにある。面白そうだな、と思う人が多いことを望むのであるが、またまた余計な仕事を、と眉をしかめている人も多いのではないか。特に出題に当たっていただく方は、短時日ではあれ相当ハードな仕事になる。かといってあまり若い人では無理だろうから、30代から40代前半の働き盛りの人を必要としている。研究論文をたくさん生産しなければ、と思っている人たちにそんなことをお願いできるだろうか。 個人の業績が論文の数だけで測られるとすると、論文数に結びつかないこういった仕事は、サービスになってしまう。そうではなくてオリンピックの出題委員をつとめることはとても名誉なことで、かつ相当な能力をもつ人であることの証明である、ということが広く認知されれば、業績として正しく認められるようになるだろう。認知して貰うためにはどうすればよいのか。それはわれわれが知恵をしぼらねばならない。

 来週はBeijingに行ってきます。(EAFESの会議その他です。)

▲田圃に水が入ったと思ったら、あっというまに田植えが済んでしまいました。兼業の人が多いから、連休あたりが田植え期なのだろう。手前の田圃は今年はもうない。住宅地に変わってしまったのである。ここではじりじりと宅地化がすすんでいる。